静/動のコントラストをピアノで紡ぐ幻想旅行記――満を持してのFLAUレーベル・ソロ・デビュー

 Henning Schmiedt(ヘニング・シュミート)やFabio Caramuru(ファビオ・カラムル)らの傑作ピアノ・アルバムを擁するFLAUレーベルより興味深いタイトルが届いた。気鋭のフランス人作曲家/ピアニスト:Melaine Dalibert(メレーヌ・ダリベール)のソロ・アルバムだ。

 熱心なレーベル・ファンであればSylvain Chauveau (シルヴァン・ショヴォ)(FLAU84)やensemble 0の作品にもピアニストとして参加したのをご存知かもしれないが、ソロでの同レーベルからのリリースは今回が初となる。(加えてJulius Eastman(ジュリアス・イーストマン)の4台ピアノ作品録音に携わったというのもなかなかユニークなキャリアだ。)

MELAINE DALIBERT 『Magic Square』 FLAU(2023)

 『Magic Square』と題された本作は〈動き ≒ “fantasy journey”〉をキーワードとした8曲の楽曲で構成されたピアノ組曲。ミニマル的でシンプルでありつつ内省的な1. “Prélude”。そのミニマルを引き継ぎつつも躍動感を得た2. “Five”が2曲目にして一気に奥行きをもたらす。その後は、音数こそ極限に減るが圧倒的に美しい響きの3. “Choral”、無窮動の名に相応しい4. “Perpetuum Mobile”、変拍子の5. “Ritornello”、単旋律が印象的な6. “More Or Less”など音の動き方という観点でバラエティ豊かな楽曲で構成される。続く7. “A Song”は坂本龍一へのトリビュートとして書かれ一際目を引く歌心に溢れた楽曲が配され、組曲全体と同じ名を冠した8. “Magic Square”にて全曲を締める。

 コロナ禍で〈動き(=旅)〉を抑圧されたことへのメランコリックさを湛えており、組曲を通して内省的で物悲しくピアノを奏でる。しかし仄かに明るさ/希望も見い出せ、気持ちのいいアンビエンスがアルバム観賞後に包み込んでくれる。またFLAUレーベルに傑作ピアノ・アルバムが連なったと、僕は心が躍っている。