「すごく地道にコツコツと制作していたのに、なぜか完成まで8年もかかってしまいました」(Isobe)。
「でも特に焦りとかはなかったんです。自分たちのペースを大切にしているし、仲の良いメンバーと楽しみながら新鮮なサウンドを探求できているので」(Nomi)。
そんなゆったりとしたタイム感で作られたセカンド・アルバム『AVATAMA』を、このたびリリースしたのがバスクのスポーツ。武蔵野美術大学に通っていた4人が2012年に結成したインストゥルメンタル・バンドだ。
「2010年前後、周囲ではポスト・ロックやマス・ロックが流行っていたんですけど、ちょうど流行らなくなってきた頃でした(笑)。僕らも54-71やバトルス、ライトニング・ボルトとかを聴いていましたね」(Isobe)。
とはいえ、それらのバンドと比較して、バスクのスポーツの音楽はもっと明るくて人懐っこい。みずから〈祝祭系エンジョイサウンド〉と表すサウンドは、〈東のneco眠る〉とでも呼びたくなる。
「ギターのKamiyaはneco眠るを好きで、昔MVのエキストラに応募したこともあって(笑)。曲のエンジョイ感はNomiの鍵盤フレーズから出ているものだと思います」(Isobe)。
「〈陽のエンジョイ〉というより、〈躁のエンジョイ〉みたいな。僕はもともとプログレ、なかでもイタリアン・プログレが好きなんです。アレアとかはメンバー全員が好きですけど、オルガンの音や好き放題やっているアンサンブルにプログレからの影響が出ているんじゃないかな」(Nomi)。
今回の『AVATAMA』は、架空のボードゲームの世界観を表したというコンセプチュアルな作品。エキゾチックでサイケな音が、リスナーを楽しく踊らせたうえで、不思議なトリップへと連れていってくれる。
「2016年頃にサンフランシスコのサイケ系のフェスに行って、その空気感にめちゃくちゃやられてしまったんです。山の中で行われていたんですけど、みんなハイになって踊っているんですよ。音楽によって、そこにいる全員に共通意識が生まれ、一体化していくことが、すごく素敵だと思った。それ以降、サイケデリックな音楽をより好むようになったので、自分たちの音楽も変化したのかも。加えて10年以上、活動を続けてきたことで僕ら独特のグルーヴが出てきている感じもあります」(Nomi)。
「演奏面では、ずっと我流の間違えた筋トレをやっているというか。特に使わない筋肉がつき続けている感じ(笑)」(Isobe)。
その独自すぎるアンサンブルは、スペイシーな冒頭曲“Exodus”から堪能できる。
「この曲のカリンバっぽい音はモデュラー・シンセで作りました。ハイパーポップを力業でやったような曲になりましたね(笑)」(Nomi)。
以降もシンガー・ソングライターのよだまりえが歌を添える唯一のヴォーカル曲“Chacruna”、「ピエール・ムーラン時代のゴングのタイム感をめざした」(Nomi)という“Seatango”、Isobeいわく「もしBUMP OF CHICKENがライトニング・ボルトのサポート・メンバーを務めたら」が裏テーマの“Halo”、ブレインフィーダー以降のビート・ミュージックとストーン・ローゼズを混ぜたかのような“Eye of Howruis”など、個性的な楽曲が『AVATAMA』には並んでいる。いずれも突き抜けているがゆえのポップな感覚を備えており、〈プログレ〉に対して苦手意識があるリスナーにも聴いてほしい、間口の広い音楽だ。
「(ポップなのは)あまり様式的にやろうとしていないからだと思います。僕らは全員90年代生まれで、この世代特有のバックグラウンドを意識しすぎない軽さがあると思う。いろいろな音楽からおもしろさだけを抽出していくような方法で音を鳴らしているんですよね」(Nomi)。
バスクのスポーツ
Nomi(キーボード)、Kamiya(ギター)、Isobe(ベース)、Ishikawa(ドラムス)から成る4人組のインスト・バンド。2012年に結成され、都内のライヴハウスを中心に活動を開始する。2014年にファースト・ミニ・アルバム『Kirola』をリリース。2016年のファースト・アルバム『運動と食卓』が話題を集め、翌年〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉ステージに出演を果たす。2018年のEP『MACHINIMA』リリース後は音源制作に集中。先行シングル“Eye of Howruis”、よだまりえを迎えた“Chacruna”の配信を経て、セカンド・アルバム『AVATAMA』(バップ)をリリースしたばかり。