©Masatoshi Yamashiro

ピアソラから黛まで、多彩な選曲で魅せる新鋭のデビュー作

 最近の日本のクラシック界、特にチェロには優れた奏者がたくさん登場し、驚くほどハイレベルな時代となっているが、そこにもうひとり特筆したい才能が現れた。パリ地方音楽院を首席で卒業し、パリ・オペラ座管弦楽団でも研鑽を積んだ櫃本瑠音である。彼女のデビューCD『Le Grand Tango』にはこれまで彼女が大事に取り組んで来た作品が詰まっているが、その選曲の多彩さに目を見張った。

櫃本瑠音, 五十嵐薫子 『Le Grand Tango』 コロムビア(2023)

 「せっかくCDデビューが出来るので、チェリストが普通取り上げるような作品ではなく、もっと世界の様々な色彩を感じられるようなアルバムにしたいと思ったのが選曲の理由です」

 と櫃本は語る。タイトルともなったピアソラの傑作“ル・グラン・タンゴ”に始まり、イタリアの鬼才ソッリマの“ラメンタティオ”、最近若手チェリストの定番とも言える人気作であるマーク・サマーの“ジュリー・オー”、シャンソンの歴史的存在であるエディット・ピアフが歌った“ラ・ヴィ・アン・ローズ”(作曲/マルセル・ルイギ)、そして戦後日本を代表する作曲家である黛敏郎の“無伴奏チェロのための“BUNRAKU””。

 「自分自身がそうしたレパートリーに魅かれていることもあるし、また自分がチェロを学ぶ上で出会った作品も多く、自分のこれまでの軌跡として残しておきたいという部分もありました」

 特に黛の傑作“BUNRAKU”は日本で学んだ師から教えられた作品で、思い出深いという。

 「この作品をより深く知るために、大阪の国立文楽劇場に通いました。そして、太棹三味線の音、また上演に触れ、人形の動きを直接観る事で、この音楽の中に込められた様々な音楽的意図を発見しました。関西出身なので、文楽劇場に行こうと思えばすぐ行けるのも良かったと思います」

 ピアフの存在はフランスに留学してから知ったそうだ。

 「当然のことですが、フランス人の文化的なアイコンのひとりであり、みんながピアフを誇りに思っている事も知りました。だからこそ彼女の歌った名作をひとつ入れたくて、林そよかさんに編曲をお願いしたのですが、その編曲もとても凝った作りになっていて、お気に入りの作品となりました」

 共演の五十嵐薫子(ピアノ)の演奏も素敵で、色彩感覚に溢れている。今後は関西を拠点に、様々なコンサートも企画しながら活動を続けて行きたいと語る櫃本。彼女のチェロにかける情熱が、この録音からも伝わって来るはずだ。

 


LIVE INFORMATION
アンサンブル・マイルストーン第39回演奏会
2023年4月1日(土)東京 三鷹市芸術文化センター風のホール
開演:14:00
曲目:ドヴォルザーク:チェロ協奏曲

第5回スーパークラシックアンサンブル
2023年4月9日(日)吹田メイシアター 大ホール
開演:14:00
https://columbia.jp/artist-info/hitsumotorune/