16色になった歌声

――〈声〉のトライで言うと、ego apartmentのZenくんをゲストに迎えた“Genius Made by Publishers”も印象的です。

BON-SAN「あの曲は田口主導で作った曲で、ビートはまず自分で叩いて録音して、それを編集したものを田口に投げて、〈ここはこうしてほしい〉みたいな要望に応えていって。そうやってラリーをしながら作ったのは、今回意外と少ないかも」

tami「普通のバンドにとってはよくある制作方法がTAMIWではレアなんです(笑)」

『Fight for Innocence』収録曲“Genius Made by Publishers”

――ego apartmenは去年の9月に開催した3マンで共演をしていて。やはり彼の声に惹かれたわけですか?

tami「そうですね。私は声フェチというか、自分の声が普通だと思ってるからこそ、ギフトみたいな声の人がすごくいいなと思って、彼もそのうちの一人ですね」

――途中の歌とポエトリーっぽい部分がZenくん?

tami「後半がZenくんで、その前のどっちかよくわからん部分は私の声を低くしてます」

――今回、声の加工も多いですよね。

tami「そうですね。“Dawn Down”でも初めてケロケロさせるやつ(オートチューン)をやってみたり。

『Fight for Innocence』収録曲“Dawn Down”

昔はちょっと抵抗があったんです。声をいじられるのが嫌というよりは、自分がそのニュアンスで歌えるようになった方がいいんじゃないかって。でも、いろんな処理をすることによって、より意図が通じやすくなったり、シンプルにかっこよくなったりするなら、そっちの方がいいなと最近やっと思えるようになって、今回は積極的にいろいろやってます」

BON-SAN「今回初めてtamiさんの声の音色についての話し合いをちゃんとした印象です。それでいろいろ試して……」

tami「これまで(の声)が4色だったら、16色くらいになった感じです」

 

多様なものを混ぜるオルタナティブな芸術

――今作はビートも非常に多彩ですが、“Fight for XX”とか“For the Ideal”のアウトロとか、トライバルな要素が散りばめられているのが印象的です。

BON-SAN「サンパ・ザ・グレイトとかヤング・ファーザーズとか、UKのオルタナティブな界隈の人たちを聴くと、そういうビートがハマりやすいというか、形になりやすいんですよね。

今回は〈入れ過ぎないように〉って注意した部分もあるんですけど、次に向けて作ってるのは〈モロそれ〉みたいなのもあるから、そこへの布石みたいな感じもあります。

まあ、中学の頃からサンバをやってた血が騒ぐんでしょうね(笑)」

――ああ、最初の話にも繋がりますね(笑)。

tami最近出たヤング・ファーザーズの新作『Heavy Heavy』はめっちゃ聴いてます。〈どうやって作ってるんやろ?〉とも思うけど、パッと聴くとキャッチ―で楽しめるのがいいですよね」

――あとは“intro”だったり、“My Innocence”だったり、オリエンタルな旋律やムードもこの作品の特徴だと思うのですが、それは何かルーツやリファレンスがありますか?

tami「BON-SANのトラックがそうじゃない?」

BON-SAN「〈オルタナティブ〉っていうジャンルのことをすごく考えた時期があったんですけど、〈いろんなものを混ぜる〉っていうことが、自分のなかの正解かなと思って。なので、ブラジルの音楽とかコロンビアの音楽とかをいろいろ聴いて、〈これは取り入れられそうやな〉っていうのを、どんどんプレイリストに入れて、参考にするようにはしていて。

僕はそういう混ざり具合のバランスに芸術性を求めちゃうので、そういう部分が出てるのかな」

tami「エッセンスとしてBON-SANが入れたであろう部分に対して、私が意識的にも無意識的にも反応して、メロディーがそこに追従してる部分もあると思う」

 

オリエンタルな要素は仏教由来?

――tamiさんはご実家がお寺じゃないですか? オリエンタルな旋律による瞑想的なムードというのは、そういうルーツとも関係あるのかなと思ったり。

tami「あるんかなあ……私は神秘性の高いものが好きで、神聖なものについて考える機会が多いのは確かです。

でもお寺で育ってると〈お寺だからこそ〉の部分が逆に自分ではわからなくて。お経が言えるとかも他の人とは違うけど、それがどう関係してるかは……」

――ちなみに、BON-SANっていう名前は〈お坊さん〉と関係あるんですか?

BON-SAN「そのまま、お坊さんだからです。安直なんですけど(笑)。僕も実家がお寺で、法義までできる免許を持ってます」

tami「BON-SANのお寺、めちゃめちゃ歴史あるお寺なんですよ」

――そうだったんですね。そこはお2人の共通点……それがどこまで音楽に反映されてるかはわからないけど。

BON-SAN「でもお経はちょっとオリエンタルな感じありますし、その感じが出てるのは当然と言えば当然なのかもしれないですね」