©Fiona Garden

定義に抗い続けるラディカルな3人組が魅力の詰まった新作を完成――生々しい躍動と一体感に溢れた『Heavy Heavy』は浮世の重さを吹っ飛ばす昂揚と楽しさを約束する!

 スコットランドはエディンバラを拠点に活動する3人組、ヤング・ファーザーズが5年ぶりにアルバムをリリース。そのタイトルが『Heavy Heavy』と聞けば、コロナ禍や戦争にまみれる昨今の世界情勢を反映した〈重ため〉の作風を想像するだろう。だが、冒頭曲の“Rice”を聴いて驚いた。ラテンのリズムに乗せて、朗らかに再生を歌うこの曲は昂揚感に溢れているのだ。

 「世界の出来事は自分たちの身に起こっていることだから無視するわけにはいかない。パンデミックやロシアの問題を通して、僕たちは社会の在り方や一緒に力を合わせていくことの大切さを学んだと思う。常に努力していくことの必要性もね。すべての事象はひとつの糸で繋がっていて、僕たちも誰かと繋がりを持って生きている。そういう意識を強めたことで、一緒に踊ったり、一緒に歌ったりすることに焦点を当てるようになった。このアルバムのムードはいまの世界の大変さと真逆かもしれないけど、僕たちはあえて真逆の〈楽しさ〉をみんなに届けようとしたんだ」(グレアム“G”ヘイスティングス)。

 「前作から5年も経っているから、たくさんのことを学ぶ時間があった。恋愛だったり、家族のことだったり、友情だったり。音楽的にもたくさんの経験を積んだし、そこで得たさまざまな要素がぎっしり詰まっている質量の高いアルバムなんだ。だからタイトルを『Heavy Heavy』にしたんだよ」(アロイシャス・マサコイ)。

YOUNG FATHERS 『Heavy Heavy』 Ninja Tune/BEAT(2023)

 2018年の前作『Cocoa Sugar』は、共同プロデューサーにティモシー・ロンドンを迎え、さらに2曲をTV・オン・ザ・レディオのデイヴ・シーテックと共作するなど、外部の力を採り入れながら作り上げたアルバムだった。ところが本作はメンバー3人のみで制作。結果的に「自分たちのいいところを抽出して凝縮できた」(グレアム)という。

 「僕たちは14歳のときからずっと一緒にいるけど、今回また子どもの頃に立ち戻ってみようと思った。3人だけでも良いものを作れる、っていう自信があったのかも。実際、出来上がりにとても満足しているし、前作のとき以上に自由で楽しめるレコーディングになったんだ」(グレアム)。

 制作時のグッド・ムードを反映してか、『Heavy Heavy』のサウンドはいつになくフィジカルでオーガニックな質感を湛えている。クラウトロックやアンダーグラウンド・ラップ、レフトフィールド・ベースといった彼ら特有のエッジーな要素も随所に残ってはいるものの、とにかくダンサブルでジョイフル。その印象には、コール&レスポンスが多用されている声の使い方も大きく関係しているだろう。

 「人間の持つリズム――声や手拍子なんかをベースにした生々しい躍動感を基調にしたんだ。速くてどこか近未来的……人々がそれに合わせて踊り狂うようなリズムが本作の根底にある」(グレアム)。

 「それとスピリチュアルなものが融合している感じ。コール&レスポンスで呼応し合って、最後は全員が一緒に歌って一体感を感じる、というのはアフリカ音楽の伝統でもあるしね。声に限らずいろいろなレイヤーを重ねることで、一体感を作り出すことは無意識的に狙っていたのかも」(アロイシャス)。

 ファシズムやナショナリズムへの抗議活動に参加するなど社会的なアクションを厭わない彼らだが、〈政治的なメッセージを音楽で発しているわけではない、ポップ・ミュージックを作っている〉と常に語ってきた。確かに本作の歌詞でも何か特定のイシューが語られているわけではない。だが、リスナーを否が応でも祝祭へと引き込んでしまうような強烈なパワーには、やはり人々の間に橋を架けようとする強い意志を感じずにはいられないのだ。

 「このアルバムはすべての人に向けたものだと思う。誰もが持つ感情が込められているからね。人間は複雑で深淵な感情の層の中に生きている。だから、いくつもの感情を一度に持つこともできるし、それは人間ならではの喜びでもある。僕たちが本作で伝えたかったのは〈共感〉〈感情を共有すること〉だね。もちろん近い感情を持ったとしても、そこには相違がある。でも、その違いを認め合うことこそが人間そのものだと思うんだ」(アロイシャス)。

ヤング・ファーザーズの過去作を紹介。
左から、2014年作『Dead』、2015年作『White Men Are Black Men Too』(共にBig Dada)、2018年作『Cocoa Sugar』(Ninja Tune)