正解はない。でもベースは〈自分で自分を包んであげる〉
――アルバムの軸となっている曲が“My Innocence”とのことでしたが、この曲はもともとどのように作られた曲なのでしょうか?
BON-SAN「“My Innocence”を作る前に、たぶん次に出す曲を作っていて。
僕はもともとヒップホップのビートメイカーが好きで、ずっと聴いてるんですけど、頭の片隅にはアルカとか、ああいうちょっと変なビートメイカーの存在があって、放っておけないというか。
で、〈こういうのを作るにはどうしたらいいんだろう?〉と思って、いろいろ実験をしていた時期があって、そのときの自分のできる限りを詰め込んで作った曲の後に、“My Innocence”のトラックに取り掛かったんです。なので、普段やらないことを詰め込んだ曲ですね」
tami「ずっと一緒に作ってきてるから、〈違うモードに入って作ったんだな〉っていうのはすぐわかりました。
でも逆に私にとってはすごく馴染むタイプの音楽なので、スッと曲に入れて、私は哲学が好きなので、哲学的なテーマの曲にしたいと思って。医学博士とかが最後に勉強したくなるのが哲学らしいんですね」
――それはなぜ?
tami「(医学などは)知識とかテクニックは輪郭がはっきりしてるのに対して、〈はっきりしてないけど、確かにある。でも説明できない〉っていうのが哲学で、いろんな哲学者の言葉にうなずきながらも、〈これが正解〉とは言えない。そこに惹かれるんでしょうね。
“My Innocence”を作るときに考えてたのは、〈自分の欲求のためだけに作品を作ってはいけない〉っていう人もいれば、〈自分というものがあるから作品ができて、それを受け取ってもらえればそれでいい〉っていう人もいて、どっちもうなずけるじゃないですか? でも意見だけ見たら相反するから、自分もその意見に振り回されて、葛藤したりもして」
――わかります。
tami「でもこの自意識は自分しか持ってなくて、他人が頭に持ってるものを手に入れられることは一生ない。なので、まずは自分で自分を愛せるように……っていうとすごく簡単ですけど、〈自分で自分を包んであげる〉っていう考えをベースにいろんなことを捉えないと、グチャグチャになってしまうんじゃないかなって。
この曲はMVも輪郭があるようでない映像になっていて、ポエティックな感じというか、それがすごくいいなと思っていて。〈好き〉とか〈嫌い〉みたいにはっきりものを言うよりも、こっちの方が心に伝わるものがあるんじゃないかと思って作った曲です」
イノセンスの追求とは〈生きること〉をノンフィクションに表現する誠実さ
――“Fight for XX”では〈Now It’s time to get up./We have to fight for innocence.〉と歌われていて、この部分がアルバムタイトルにもなっているわけですが、〈Fight=戦う〉は決して大げさな意味ではなく、〈Live=生きる〉に近いニュアンスのように感じました。
tami「歌詞では使ってないですけど、〈勇気〉という言葉も近いかもしれないです。一人の人間として生きていくうえで、自分のいいところともダメなところとも向き合う勇気。
それをちゃんと持っていたいっていうのが、アルバム全体のテーマになっていると思います」
――BON-SANはアルバムのテーマ性やメッセージをどう感じていますか?
BON-SAN「僕はずっとメッセージ性の強いポエトリーのユニットをやってきたんですけど、プレイヤーやトラックメイカーである自分自身がそれに反応するのはちょっと違うのかなと思って、あんまり干渉しない癖がついていたんですね。そこに干渉しちゃうと、次の作品を作るときに寄り添っちゃうというか、〈これをやったら、その世界をもっと広げられそう〉みたいなトラックを作るようになっちゃって、それはあんまりよくない気がして。
なので、〈こういうことを言ってる〉っていうのは感じつつも、あんまりそこに意見を持たないようにしようっていうスタンスなんです」
tami「ポエトリーという表現はもっと〈個〉の感じで、そこが強さになってたりもすると思うんですけど、私のテーマはわりと漠然としてるというか、空気の色とかでも伝わるものかなと思っていて。もちろん、言葉が直接刺さる人がいてもいいですけど、これは愛の色、これは悲しい色とか、そういうのでも伝わっていいと思ってて」
BON-SAN「色味っていうのは確かに、自分も感じてる部分ではあります」
tami「〈言葉で直接刺したい〉と思ったら、日本語にするべきだと思うんです。でもTAMIWでは英語で歌っていて、歌詞として探求したい人には和訳を読んでもらいたいですけど、私自身は〈繰り返していくうちにしみこんでいく〉みたいな体験が好きなので、そうやって体験してくれてもいい。
〈こうじゃなきゃダメ〉に囚われてほしくなくて、私は言葉で感じて、BON-SANは色で感じて、その間に他のメンバーがいるのかなって」
――それで言うと田口さんはtamiさん寄りなのかもしれなくて、やっぱり4人ならではのバランスがあるんでしょうね。今回のアルバムには戦争のニュースを画面越しに見つめる曲もあれば、元カレの幻影に苛まれる曲もあって、曲ごとのテーマは全然違うんだけど、でもそれぞれがその人の人生にとっての〈Innocence=純真さ〉であることには変わりがなくて、それぞれの違いを肯定している。そこもTAMIWらしさだなと感じます。
tami「さっき〈Fight〉が〈Live〉みたいなニュアンスに聴こえるとおっしゃっていただきましたけど、〈生きる〉ということをそのまま表すとこういうアルバムになるというか、恋愛脳の人だって日々ずっと恋愛のことばっかり考えてることはありえなくて、戦争のことを考えるときだってあるだろうし、みんないろんなことを考えなら生きてるはずで。だから、〈この曲は好きだけど、この曲は好きじゃない〉でも全然いいと思う。
そこに不自然さがあるのは嫌というか、ノンフィクションな状態で出すっていうことが自分の誠実さであり、それこそがイノセンスの追求なんじゃないかと思うんです」
RELEASE INFORMATION
■デジタル/CD
リリース日:2023年2⽉22⽇
品番:5SQ-0015
価格:3,020円(税込)
配信リンク:https://ssm.lnk.to/FightforInnocence
TRACKLIST
1. intro
2. Fight for XX
3. Dawn Down
4. My Innocence
5. For the Ideal
6. inter rude
7. Eyes on Me
8. Kick Off
9. Dear Ghost
10. Genius Made by Publishers
11. Wholesome Moments in Love
■LP
リリース日:2023年5月24日(水)
品番: 5SQ-0016
価格:3,300円(税込)
TRACKLIST
A side
1. intro
2. Fight for XX
3. Dawn Down
4. My Innocence
5. For the Ideal
6. inter rude
B side
1. Eyes on Me
2. Kick Off
3. Dear Ghost
4. Genius Made by Publishers
5. Wholesome Moments in Love
ダウンロードコード付き
LIVE INFORMATION
TAMIW presents「Fight for Innocence」release ONE MAN LIVE

2023年3月10日(金)東京・渋谷 Spotify O-nest
開場/開演:19:00/19:30
前売り/当日:3,500円/4,000円
チケット:https://eplus.jp/tamiw/
PROFILE: TAMIW
2018年、ボーカリストのtamiを中⼼に結成されたポスト・トリップホップバンド。バンドフォーマットながらサンプリングやアナログシンセを駆使したサウンドは、ベースミュージック、ヒップホップを経由したエレクトロニックなトラックを基調としており、絶妙なバランス感覚でオルタナティブミュージックを作り上げている。結成後の2018年にファーストアルバム『flower vases』をリリース。2019年には20公演のアメリカツアーを敢⾏。翌2020年にはセカンドアルバム『future exercise』を発表。なお、このセカンドアルバム以降の作品はバンドが運営する⼤阪堺寺院内のスタジオ〈⽇本のブリストル=Hidden Place〉で制作されている。2021年、“Lights”“PurePsychoGirl”と2作のシングルをリリース。〈FUJI ROCK FESTIVAL〉の〈ROOKIE A GO-GO〉に選出されたことなどでも話題となる。2022年2⽉に初のEP『Floating Girls』を⼀部店舗限定&デジタルでリリース。9⽉にはライブ映像を加えたDVD付の全国流通盤として再リリースした。11⽉から翌2023年1⽉まで“Eyes on Me”“Kick Off”“My Innocence”の3か⽉連続配信リリースで注⽬を集めるなか、2023年2⽉22⽇にサードアルバム『Fight for Innocence』をリリースする。