「アメリカン・アイドル」からクイーンのヴォーカリストへ、そしてさらに真摯な表現者へ――古今の名曲を取り上げた待望のニュー・アルバムではどのようなドラマが歌われている?
初めてのカヴァー・アルバム
いまやクイーンのフロントマンとして広く知られるアダム・ランバートだが、もちろんソロ活動もコンスタントに並行している。2020年の『Velvet』以来、約2年ぶりに通算5作目のニュー・アルバム『High Drama』を完成させた。クイーンでも好き放題やらせてもらっているように思える彼だが、ソロともなれば、いっそうグラマラスで煌びやかで、とことん自分らしさを発揮する。『High Drama』というタイトルに違わず、究極のドラマ性と高揚感でグイグイ圧倒。カヴァー・アルバムは、彼にとっても初めての試みだ。
とはいえ「アメリカン・アイドル」時代からカヴァーならたくさん歌ってきたアダム。TVシリーズ「glee/グリー」でもレディ・ガガの“Marry The Night”やダークネスの“I Believe In A Thing Called Love”などのカヴァーを披露していたし、そもそもクイーンとしてステージに立つ時も、いわばカヴァーを歌っているようなもの。そう、カヴァーならお手のものなのだ。とはいえ、だからこそ本作ではひと味もふた味も違った、彼らしいフィルターを通したカヴァー集を作りたかったのではないかという気がする。
オープニングを飾るのは、ボニー・タイラーの84年のヒット曲“Holding Out For A Hero”。日本では麻倉未稀らの日本語ヴァージョンなどもヒットして、最近ではブラッド・ピット主演の映画「ブレット・トレイン」に使われていたり。疾走感溢れるダイナミックなオリジナルはアダムのキャラにピッタリという気がするが、本作ではブギーなグラム・ロック調を展開する。ホールジーやジェイソン・ムラーズを手掛けるアンドリュー・ウェルズがプロデュースを担当。本家ボニー・タイラーも絶賛し、〈素晴らしいヴァージョン〉とみずからツイートしていたほどだ。