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数多のレジェンドたちを魅了してきたニューオーリンズの顔役が約20年ぶりにソロ・アルバムを完成! 伝統を軽やかに更新する男のソウルに触れてみよう!

 トロンボーン・ショーティを筆頭に、PJモートンやタンク&ザ・バンガズのような面々がいて、ジョン・バティステのようなアイコンもいる。そうした顔役たちに遥かに先駆ける格好でニューオーリンズ音楽の魅力を外へと広げてきたのがアイヴァン・ネヴィルだ。もちろんネヴィル・ブラザーズのアーロン・ネヴィルを父に持ち、彼らのバックからキャリアを踏み出したアイヴァンは、ミーターズから流れるファンクの血統においては、〈ニューオーリンズの長男〉と言っても差し支えない重要人物である。ただ、その長男というイメージがクセモノで、ソロ・デビュー曲“Not Just Another Girl”(88年)のポップ・ヒットも生んだ本人の年相応な資質よりも〈アーロンの息子〉〈ネヴィルズの伝統〉という側面にどうしても着目されがちだったのは否めないだろう。

 また、ボニー・レイットのバンドで鍵盤奏者として経験を積み、ローリング・ストーンズやロビー・ロバートソンと共演、キース・リチャーズのエクスペンシヴ・ワイノーズで活動するなど、ロック巨人たちとの輝かしい仕事歴も、彼のイメージを一面的に見せていたところはあるかもしれない(なお、彼はルーファスやスピン・ドクターズの一員でもあった)。

 そんな見え方の幅が広がったのは今世紀になってからで、2003年には従兄弟のイアン・ネヴィル(アート・ネヴィルの息子)らとよりフレッシュなファンク・バンドのダンプスタファンクを始動。また、カトリーナ被害を経てからは行動力のあるヴェテランとして存在感を発揮しはじめ、近年はトロンボーン・ショーティやボネラマ、ギャラクティック、スナーキー・パピーら後進と手合わせする機会も増えている。そうやってダンプスタファンクを主軸にしつつ上下の世代と絡んできた彼が、ここにきて『Scrape』(2004年)以来となるソロ・アルバム『Touch My Soul』を完成させた。

IVAN NEVILLE 『Touch My Soul』 The Funk Garage/Mascot/ソニー(2023)

 満を持しての一枚に相応しく、彼の幅広い経験や実績を反映した力作であることは、冒頭の“Hey All Together”からも明らかだ。アーシーな風情のグルーヴに声を重ねるのはボニー・レイット(アイヴァンの初作で“Falling Out Of Love”のデュエット相手も務めた)とマイケル・マクドナルド、リヴァイヴァリスツのデイヴ・ショウ、父のアーロンという豪華な面々で、トロンボーン・ショーティとエリック・ブルーム(レタス)もホーンズに名を連ねる。アイヴァンの歌と鍵盤を支える基本の演奏陣はイアン・ネヴィル(ギター)、トニー・ホール(ベース)、デヴェン・トラスクレア(ドラムス)らダンプスタファンクの仲間たちだ。引き続きトロンボーン・ショーティが参加したセカンドラインの“Greatest Place On Earth”は〈ニューオーリンズはこの世で最高の場所〉と歌われる大らかな地元讃歌。アイヴァンの愛息を含む賑やかなキッズ・コーラスもポイントだろう。ここでは、プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンドから最古参メンバーとなるクラリネット奏者のチャーリー・ガブリエル(昨年、89歳でサブ・ポップからソロ・デビューした)と、スーザフォン奏者のベン・ジャッフェも招いて温かなホームの空気を醸造する。続く“Might Last A Lifetime”には叔父のシリルも登場。なお、大半の曲ではお馴染みのアンジェリカ・ジョセフら地元のシンガーがバックアップしている。

 もちろんコラボの数々は地縁だけによるものではない。ジャック・キャサディやポール・アレンの録音で絡んだことのあるドイル・ブラムホール2世がファンキーな“Dance Music Love”でギターを弾けば、滋味深いタイトル曲“Touch My Soul”ではエクスペンシヴ・ワイノーズの絆でチャーリー・ドレイトンがドラムを叩く。ダンプスタファンク作品に客演していたスケリックもファンク・ジャムの“Stand For Something”でサックスとホーン・アレンジを担当。さらに、ネヴィル・ジェイコブズ名義でコラボ作も作ったカントリー音楽家のクリス・ジェイコブズが多くの楽曲で共作者に名を連ねているのも含め、これまでの人脈やキャリアが無理なく束ねられた印象であり、結果的に20年のタメがあったことで逆にここまでの広がりが生まれたのは言うまでもないだろう。

 後半にトーキング・ヘッズ“This Must Be The Place”のブライトなカヴァーも繰り出してくるアルバムは、マホガニー・ブルー(90年代にデビューしたNOLA産の姉妹R&Bトリオ)の3人がコーラスを重ねた“Pass It All Around”の壮大なリフレインを経て、まさに曲名通りなピアノ演奏の“Beautiful Tears”で幕を下ろす。普遍的で楽しい音楽の魅力とメッセージに溢れたアイヴァンの魂にぜひ触れてみてほしい。

ダンプスタファンクの近作。
左から、2013年作『Dirty Word』(Louisiana Red Hot)、2021年作『Where Do We Go From Here』、演奏を務めたメイシオ・パーカーの2020年作『Soul Food: Cooking With Maceo』(共にThe Funk Garage/Mascot)

アイヴァン・ネヴィルが参加したガヴァメント・ミュールのニュー・アルバム『Peace...Like A River』(Fantasy/Concord)

『Touch My Soul』参加アーティストの関連盤。
左から、ネヴィル・ジェイコブズの2018年作『Neville Jacobs』(Harmonized)、トロンボーン・ショーティの2022年作『Lifted』(Blue Note)、アーロン・ネヴィルの2016年作『Apache』(Tell It)、ボニー・レイットの2022年作『Just Like That...』(Redwing)、チャーリー・ガブリエルの2022年作『Eighty Nine』(Sub Pop)、レタスの2022年作『Unify』(Round Hill)、ドイル・ブラムホール2世の2018年作『Shades』(Provogue)