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自分たちの弱さを表現し、リスナーの孤独な気持ちに寄り添いたい――コロナ禍を経て、 決意を固めたバンドがパンキッシュな新作で歌う、ありのままの私たちらしさ

 姉妹がメンバーにいること、ダンサブルなインディー・ポップを得意としていることから、ハイムと並び評されることの多い4人組、エイシズ。10代になる前からパラモアに憧れてバンドを組んでいたという彼女たちは、同世代のロードの登場に刺激を受け、〈私たちにもできるはず!〉と音楽で生きることを決意。2018年にファースト・アルバム『When My Heart Felt Volcanic』をリリースし、2020年にはモダンなポップとしての完成度を高めたセカンド・アルバム『Under My Influence』を発表した。

 「『When My Heart Felt Volcanic』は、10代の終わり頃に自分たちのクィアネスを認識した瞬間、それから経験した初恋や初キスの感覚を捉えた美しいアルバムでした。『Under My Influence』では、よりはっきりとアイデンティティーを表現しています。ゲイであることを隠さずに歌い、私たちが幼少期に聴いていたマイケル・ジャクソンやクイーンなど80年代のポップへのラヴレターを作ったのです」(アリサ・ラミレス、ドラムス:以下同)。

THE ACES 『I’ve Loved You For So Long』 Redbull(2023)

 それから3年、このたびリリースされるサード・アルバム『I’ve Loved You For So Long』は過去の2作とは少し趣が異なり、パンキッシュで力強いバンド・アンサンブルを全編で聴くことのできる作品になった。

 「パンデミックによって時間が出来たこともあり、真剣に世の中のことを学べ、このバンドを〈世界をより良い場所にするため〉に使いたいと思いました。同時に自分たちがどういう人生を送ってきたかも見つめるようになり、エイシズを始めたときの気持ちや衝動を思い出したんです。結果、ガレージで演奏していたパンクやエモに立ち返ったんだと思います」。

 本作のパワフルな音作りに貢献しているのが、全曲で共作者にクレジットされているプロデューサーのキース・ヴァロン。クロエ・モリオンドやジョージの作品にも貢献してきた彼は、前作の“Daydream”に続いての参加となる。

 「“Daydream”は不思議なプロセスを経た曲なんです。当初、私たちはあの曲を好きでなくて、アルバムに収録しないだろうと思っていました。ところが前作の完成直前に聴き直して、〈これは本当にすごいな〉と感じたんです。キースは素晴らしい才能の持ち主で、何より常に前向き。コロナ禍のなかで、彼のポジティヴィティーには本当に助けられました」。

 90年代オルタナ・ポップ的なサウンドに乗せて切ない思慕を歌った表題曲や疾走するパンク・ソング“Girls Make Me Wanna Die”、ダンサブルな“Solo”など多彩な楽曲を揃えた『I’ve Loved You For So Long』。なかでも、アリサが手応えを感じているのはガール・ポップ調のコーラスが華やかな“Miserable”だという。

 「制作に行き詰まっていたタイミングで、急にこの曲が出来たんです。〈これは私たちが書いた曲のなかでもっともクールかも〉と思いました。新鮮で、おもしろくて、アルバムに欠けていたピースをついに手に入れた気がして」。

 彼らが育ったユタ州プロボの街への甘苦い気持ちを込めた“Suburban Blues”を筆頭に、本作では前2作にも増してパーソナルな経験や想いを歌っている印象だ。〈正直であること〉はエイシズにとってはもっとも大事なことなのではないか。

 「人生が上手くいかず、落ち込んでいるということを率直に話すことが、2021年頃の私たち、そして多くの人々にとってリアルなことだったと思います。私たちの最大の目標は、音楽を通して自分たちの弱さを表現し、聴いた人に〈私だけじゃないんだ〉と感じてもらうこと。その想いが、あなたの心に響いたのなら嬉しいです」。

エイシズの過去作。
左から、2020年作『Under My Influence』、2018年作『When My Heart Felt Volcanic』(共にRedBull)

キース・ヴァロンが関わった近年の作品を一部紹介。
ジョージの2022年作『SMITHEREENS』(88rising/Warner)、MONSTA Xの2021年作『The Dreaming』(BMG)、クロエ・モリオンドの2021年作『Blood Bunny』(Fueled By Ramen)