匿名の〈彼女〉から、はっきりと主張する〈SAGO〉へ。ざらついたギター・サウンドとロックなドラムを背中に従え、いま彼女は他の誰でもない自分自身になる!
2010年代の国内インディー・シーンにおいて、オルタナかつローファイなサウンドで人気を博した京都発のバンド、she said。活動休止中の同バンドでフロントウーマンを務めていたSAGOは2019年よりソロ・プロジェクトを始動。このたびSAGOSAIDとしてファースト・フル・アルバム『Tough Love Therapy』をリリースする。
「バンドを休止したし、ソロの要素が強い音楽をやりたくなったんです。最初はシンガー・ソングライターっぽく一人で活動しつつ、やっぱりバンド・サウンドが好きだとなり、サポート・メンバーを入れることにして。VINCE;NTのギタリストであり、いま一緒にスタジオ〈Studio REIMEI〉を運営しているシンマ、大学の先輩だったベーシストの木村伊織を誘ったんです」(SAGO、ヴォーカル/ギター)。
ドラマーは何度かの交代を経て、現在は元シャムキャッツの藤村頼正が参加。藤村が加入したことで、SAGOSAIDの音楽性に変化がもたらされたという。
「活動を始めた当初はベッドルーム・ポップっぽかったり、以前のドラマーの影響で少しジャズっぽかったりしたんですけど、藤村さんが加入したことで、ロックとしての力強さが増したと思います。彼に活き活きと叩いてもらいたいと思いながら曲を作るようになった」(SAGO)。
「一緒に演奏してみて、こんなにロック・ドラマーなんだと驚きました。藤村さんは生き方も破天荒でロックなんですよね(笑)」(シンマ、ギター)。
アルバム『Tough Love Therapy』は、ざらついたギター・サウンドとダイナミックなリズム・アンサンブルが魅力を放つオルタナティヴ・ロックの傑作だ。ドライヴィンな“Broken Song”、スマッシング・パンプキンズばりのドラムが炸裂する“Stay soft, touch my skin”、焦燥感に溢れたパンク“Chinese Restaurant”など全12曲を収録。打ち込みのビートを要所要所で入れてくるなど、ときおりY2K的なポップさを纏う点もたまらない。
「90年代のグランジ的な薄汚れた音が好きなんですけど、あまりにローファイ過ぎても聴く人を選んでしまうので音作りは苦労しました。ビーバドゥービーの『Fake It Flowers』が参考になりましたね。彼女と私はすごく趣味が合うと思う(笑)。あとはスネイル・メイルなんかの、ソロだけどバンド・サウンドというミュージシャンにも影響を受けています」(SAGO)。
「僕が作曲した“In REIMEI”はササミを意識しましたね。インディーっぽいメロディーにメタルやハード・ロックの要素を持つ演奏を重ねた曲がSAGOの歌声に合う気がしたんです」(シンマ)。
『Tough Love Therapy』は歌詞もなかなかに強烈だ。〈あなたの指紋だって覚えたい〉〈他の惑星にでも行って遊ぼうよ/窒息してもいいよ〉〈退屈でいたい/連れてきたい/曖昧で痛い〉など SAGOの恋愛観や人生観をダイレクトに反映したと思しき言葉が並んでいる。
「歌詞は個人的なことを歌っています。だから私の葛藤やネガティヴな気持ちも率直に出ているんだと思う」(SAGO)。
「SAGOさんの歌詞は凄いです。気持ちを読み取れるし、彼女を育んだパンクの思想も表れていると思う。フェミニズム的な側面も出ているし」(シンマ)。
she said時代からの変化としてはSAGOのルックスも挙げられる。いかにもインディー好きな女子然としていた以前と比較して、いまの彼女は緑色の髪型やギャル感のあるメイクが目を引く。服装もゴスからストリート系までさまざまで、より奔放に自分を表しているのだ。
「she saidの頃はあまり主張できない性格で、周りから意見を言われることも多く、ストレスを感じていたんです。当時は匿名の〈she〉という存在に憧れがあって、それをバンド名にしたんだけど、そういうスタンスには無理があったし、やっぱり自分は自分で〈SAGO〉にしかなれなかった。だからSAGOSAIDという名前にしたんです。見た目を強めにしたことで、余計なことを言われることもなくなったし、良かったですね」(SAGO)。
他の誰でもない私だからこそ価値がある――歪んだギター・サウンドに乗せて運ばれる〈SAGOの言葉〉は、自己評価に悩むリスナーを鼓舞し、自分らしく生きるためのサウンドトラックとして鳴り響くはずだ。
メンバーの 関連作を一部紹介。
左から、she saidの2015年のミニ・アルバム『So Lonely but Never Alone』(SECOND ROYAL)、VINCE;NTの2022年作『VAPID』(DEBAUCH MOOD)、シャムキャッツの2018年作『Virgin Graffiti』(TETRA)