納得がいくものを納得がいくまで作るぞ
――なるほど。Hanahさんはフィーチャリングで参加した曲が数えきれないほどありますし、〈自分の曲を作りたい〉というシンガーソングライターの面と、〈頼まれたらいい音を返したい〉というミュージシャンの面を両方持っていますよね。そんな中で今回、曲作りの方針や指針はありましたか?
「前作は〈頑張っていい曲を作らなきゃいけない〉〈お金にしなきゃいけない〉というマインドがあったんですけど、今作はフリーなので締め切りもなく、〈納得がいくものを納得がいくまで思いっきり作るぞ〉と決めていたんです。気に入らなかったら何回でも録り直せばいいし、歌い直せばいい。制約を設けずにやれるところまでやって、〈ネガティブな感情や悲しいことも音楽にしてしまえば、共感してくれる人に届く可能性があるんじゃないか〉と思えたんです。それを自分の道筋にしようと思って」
――それは、コロナ禍で人に会えないとか、ライブハウスでライブができないとか、そういったことも関係していますか?
「めちゃくちゃありますね。今まではスケジュールに追われて、それを楽しく消化していく感じだったんです。それがなくなって、〈そもそも、なんで私はライブができないとこんなに辛い気持ちになるだろう?〉と考えて、〈そっか、人と何かを分かち合うことが大事だったんだな〉と気づいたんですね。共演者さんと同じ板の上でセッションするとか、一緒に歌ってハモるとか、それだけで鳥肌が立っちゃうようなあの感じが大好きだったんだって、改めてわかったんです」
――そのことは歌詞にも影響していますか?
「そうですね。“Music The Magic”とかは、まさに。メロディとハーモニーとリズムが音楽の3大要素だと言われるじゃないですか。でも、それ以外に〈グルーヴ〉という要素もありますよね。グルーヴって抽象的なものですが、でも確実に存在している。それって、私たちを〈イェイ!〉ってしてくれるものなんじゃないかな。〈うん、それだな〉と思って、それを曲にしたいと思いました」
濃いキャラクターのゲストが出す〈味〉
――今回はゲストの方々のサウンド面での貢献が重要ですよね。mabanuaさんはデビュー作の『i’m not alone』(2010年)にも参加されていますし、お付き合いは長いですよね。
「めっちゃ長いですね」
――多和田えみさんとも長いですよね?
「めちゃくちゃ長いです(笑)。CHAN-MIKAちゃんとは自分が10代の時に友だちになったんですけど、今回初めて彼女と一緒に歌うことができました」
――石若駿さんと出会ったのは最近ですか?
「いえ、駿くんが20歳くらいの頃ですね」
――ROOT SOULさんは?
「ROOT SOULくんとは、めちゃくちゃ古いですね」
――自分たちのグルーヴを持っていて、自分たちの音楽をヒットチャートに左右されずにちゃんとやりつづけている方々ですよね。そのことは、このアルバムに確実に関係していますよね?
「そうですね。みなさんのものすごく濃いキャラクターが、一曲一曲の中で大きな部分を占めています。自分は人に合わせることも好きなので、共演者によって色んな味の音楽を楽しめることがすごく幸せです」
――どの曲もサウンド的に多彩なのですが、アルバム全体の雰囲気としては90sフレーバーのネオソウル的なものを感じます。やりたい人たちとのセッションを続けていたら、こうなったのでしょうか?
「そのとおりです。えみちゃんの声とオクターブでユニゾンしたら気持ちいいとか、CHAN-MIKAちゃんのラップがかっこいいから一緒にやりたいとか、そういうふうに一緒にやりたいと思っていた人たちと音楽を作った、自然な結果なんですね。みんな、ずっと友だちでいてくれて本当によかったなって、嬉しく思っています」
――一方、Kzyboostさんのトークボックスが入った“Nobody / Private Party”、ROOT SOULさんとのダンサー的な“Thank U 4 The Heartbreak”には、70sソウルのサウンドテイストがありますよね。ネオソウルは70sソウルを受け継いたものですから、そういったサウンドや歴史がみなさんの血の中に入っているのを感じました。ビジネスライクじゃない繋がりや、ピースが集まった時の楽しさが伝わってきます。
「はい。ただ、私の時間のかけ方に関しては、エンジニアさんに怒られちゃいました(笑)。〈プロがそんなに時間をかけて作っていちゃダメだよ〉って。けど、〈私はアマチュアだもん!〉っていう気持ちでやり抜いて(笑)。もちろん技術的な妥協はしたくないんですけど、そういうピュアな気持ちで音楽をやりたいなと思っていました」
――僕はHanahさんの歌を長く聴かせてもらっていますが、歌に対する細やかさや丁寧さは今が圧倒的に素晴らしいと思います。
「ありがとうございます。宅録に切り替えて、うまく歌えるまで何回でも録り直せることに味を占めてしまって、すごく楽しくなっちゃって(笑)。一日中、無邪気に遊んで歌っていました。ジャッジする大人もいないですし、今までとはちがうベクトルで音楽と向き合えたんです。何時間でも作業やものづくりができるということが、自分にとっていちばん大切なことでしたね」