〈10年代を代表するジャパニーズソウルディーヴァ〉と評される歌い手Hanah Springが、5年ぶりのニューアルバム『SOZO』を2023年6月26日にリリースした。原点である90s R&Bやネオソウルの要素をベースにした本作は、キャリアの集大成と言っていいセルフプロデュースアルバム。プロデューサーとしてmabanua、関口シンゴ、DJ HAZIME、石若駿、Uyama Hiroto、grooveman Spotら、ゲストとして笠原瑠斗、多和田えみ、CHAN-MIKA、Kzyboostなど、多彩な音楽仲間たちが貢献している点もポイントだ。
そんな『SOZO』について、エディター・ライター・ラジオパーソナリティとして多面的な活躍をする渡辺祐がインタビューをおこなった。Hanah Springをデビュー当時から知る渡辺が、アルバムの背景とそこに込められた思いを引き出す。
独立して再スタートした矢先のコロナ禍
――リリース、おめでとうございます。
「ありがとうございます! 5年ぶりになっちゃいました」
――その5年間にコロナ禍が含まれてもいるわけですが、まずは制作から発表に至るまでの流れを教えていただけますか?
「2019年に、それまで所属していた事務所を辞めたんです。それ以前はMISIAさんのライブでコーラスを7年ほどやっていて、一回のツアーで77公演をやったり、フェスに出ることがあれば計80本ほどライブに出ていました。ただ、それでは自分の音楽ができなくて。自分が売れていないのにすごくビッグな人と一緒にやっていて、〈私、何者なんだろう?〉という気持ちになっちゃったんです(笑)。
私は親がミュージシャンなので、〈食べられてなんぼ〉という価値観から〈プロになれたね〉と認められてしまうのも違和感がありました。食べるために音楽をやっていることと自分のため、表現のための音楽との間で、アイデンティティがグラングランになっちゃったんですね。それで、〈この仕事を40代も続けていくのは難しい〉と思ったんです。体力的にもそうですし、プライベートでも色んなことがあって……。
そして、事務所から独立して、自分の音楽をどうやっていこうかと考えていたら、コロナ禍でライブやツアーが飛んでしまいました。再スタートだと思ったところで出鼻をくじかれて、〈どうしよう?〉と絶望しましたね」
〈origami Home Sessions〉で生まれた笠原瑠斗との“Keep Your Head Up”
――なるほど。前作『Dreamin’』のリリースは2018年ですが、5年はあっという間でしたでしょうね。
「はい。自粛期間が始まった当初は、友だちにも会えないし、家で一人でお酒を飲んだりして、ふてくされていたんです(笑)。
そんな中、mabanuaくんたちが〈origami Home Sessions〉というミュージシャン救済プロジェクトを立ち上げたことに、すごく感動して。〈落ち込んでる場合じゃないよね〉と思って、一緒にライブをする予定だった笠原瑠斗さんと作った曲が“Keep Your Head Up”でした」
――制作のきっかけが、〈origami Home Sessions〉だったんですね。
「そうです。搾り出さないと出てこないかなと思ったんですけど、mabanuaさんのトラックを聴いていたら、メロディやフレーズが自然と浮かんできました。自然な流れで〈音楽をやりたい〉という気持ちにさせてもらえたのは、origamiのみんなのハートのおかげです。origamiのプロジェクトは応援の気持ちとして受け取って、私も微力ながら、その曲の収益をツアーする予定だった会場に寄付したりしました」
――笠原さんとの出会いを教えてもらえますか?
「苫小牧のCLUB ROOTSというお店で共演する予定だったんですけど、お会いする前に曲を作ることになったんです。〈ライブ、キャンセルになっちゃいましたね。でも、せっかくだから曲を作りませんか?〉とべーシックトラックを送ったら、〈いい曲ですね〉と言っていただけたので」
――どなたかに紹介してもらったんですか?
「北海道で漁師をやりながらDJやブッキングをやっているピーターくんって方がいて、彼が〈Hanahちゃんと瑠斗が一緒にライブをしたら胸アツなんだよな~〉と繋げてくれました」