ヤーマン! パーカッションの魔術師とUKダブ総帥が手を組んだ伝説的プロジェクト、12年ぶりの帰還――ガーナからロンドンを経由して進むリズムの旅はどこへ向かう?

 昨年は世界各国の女性ヴォーカリストと組むプロジェクト『Dub No Frontiers』を発表したほか、ホレス・アンディの重厚な2タイトルやスプーンのダブ盤といった大粒の作品を手掛けたUKダブの総帥、エイドリアン・シャーウッド。そんな彼とOn-Uの次なる一手は、アフリカン・ヘッド・チャージのニュー・アルバム『Trip To Bolgatanga』だ。結成メンバーのボンジョ・アイヤビンギ・ノアを中心に80年代初頭から動いてきたこのアンサンブルの歩みはもはや伝説と言ってもいいが、オリジナル・アルバムの発表は『Voodoo Of The Godsent』(2011年)以来、実に12年ぶりのこととなる。もちろん今回もボンジョがレコーディングを主導し、エイドリアンが制作を共同で指揮した強力このうえない作品だ。ここに至るまで長い期間を要した理由についてボンジョはこのように説明する。

AFRICAN HEAD CHARGE 『A Trip To Bolgatanga』 On-U Sound/BEAT(2023)

 「12年という時間が経つ間、私はガーナで家族と過ごしていたけど、創作は続けていた。 まだまだ自分には世に問うべきことがたくさんあるってことは、きっとわかってもらえるだろう。人生において、この時期は仕事もしたかったけど、家族との時間も大切にしたかった。毎日を愉快に過ごしながら創作にも精を出した。何といっても幸せなことがあれば、いっそう創作に前向きになれるものだし、最大の幸福は家族といることなんだから」。

 その期間に彼はアフリカのさまざまな土地を訪れて現地のパーカッショニストに会っていたという。表題にあるボルガタンガとはガーナの首都アクラから北上した都市の名前だ。

 「私は25年以上ガーナを行き来していて、いまはアクラに家もあるし、子も孫もいる。だから長い間、アフリカ各地のさまざまなドラム・パターンを学んでいる。今回のアルバムには、いままで私が学んできたアフリカのドラム・パターンが詰まっているんだ。アフリカには多様なドラム・パターンが無限に存在しているからね。ドラミングには永遠に学びがある。私がいまから200年ドラムを叩き続けたとしても新しい学びがあるくらい、ドラム・パターンは無数に存在する。ドラミングとは言語。アフリカに無数の言語が存在するように、ドラム・パターンも無限に存在しているんだ。これからもアフリカ各地へ行って新しいドラム・パターンを学び、そこに故郷のルーツであるジャマイカのラスタマンとしてのクミナやナイヤビンギを融合させていきたい。それはいままで私がやってきたことでもあり、そういった文化と音の融合が今後も私のやりたいことなんだ」。

 彼が話す通り、アフリカ音楽を基調にジャマイカのルーツとロンドンのヴァイブを融合したサウンドはアフリカン・ヘッド・チャージ固有の持ち味だが、今回の新作はよりガーナの伝統音楽にコンシャスなようにも感じられる。それは本人の志向によるものでもあるし、制作中にパンデミック期間を迎えて制約が生じた結果だったのかもしれない。録音はボルガタンガやアクラの地元ミュージシャンたちと進められた。

 「ボルガタンガではいままで以上に深くアフリカのドラミングを学んで、スタジオに行ってはレコーディングし、その後アクラのスタジオでチャントや他の楽器を加えてレコーディングした。録音はボルガタンガで始まり、アクラでさらに音を加え、それをイギリスで仕上げていったっていうプロセスだね」。

 制作そのものはボンジョが自発的にやっていたことで、その過程でエイドリアンとのやりとりもなかったそうだが、「私がガーナでレコーディングしたものを送ると、いつもエイドリアンはすごくエキサイトして気に入ってくれて、これを一緒に形あるものしようということになった」とのことで、今回のアルバム完成へと至ったようだ。さように強力な内容となった『Trip To Bolgatanga』ではあるが、その長いトリップの行程には9月の来日公演も含まれている。その勇姿を目撃できる幸運な人もそうでない人も、これからの暑い季節を過ごしつつ、深遠で重厚なリズムとダブの心地良さに酔いしれていただきたい。

アフリカン・ヘッド・チャージの作品を一部紹介。
左から、編集盤『Drumming Is A Language 1990-2011』、未発表音源集『Return Of The Crocodile』、2011年作『Voodoo Of The Godsent』(すべてOn-U Sound)

エイドリアン・シャーウッド関連の近作。
左から、エイドリアン・シャーウッドの2022年作『Dub No Frontiers』(Real World)、ホレス・アンディの2022年作『Midnight Rocker』(On-U Sound)、スプーンの2022年作『Lucifer On The Moon』(Matador)

 


LIVE INFORMATION
Adrian Sherwood presents DUB SESSIONS 2023開催!

2023年9月14日(木)東京・LIQUIDROOM
2023年9月15日(金)大阪・BANANA HALL
出演:アフリカン・ヘッド・チャージ/GEZAN/エイドリアン・シャーウッド