UKダブ/レゲエを象徴する革新的なプロデューサーにしてOn-Uサウンドの主宰者、エイドリアン・シャーウッド。アフリカン・ヘッド・チャージの実に12年ぶりとなる新作『A Trip To Bolgatanga』を手がけたことも大いに話題になった彼が、2023年9月に東京と大阪でアフリカン・ヘッド・チャージらとともに〈ADRIAN SHERWOOD presents DUB SESSIONS 2023〉を開催し、3都市で単独公演も実施した。さらに、新たなプロデュース作としてクリエイション・レベルの41年ぶりの新作『Hostile Environment』も発表したばかり。
リリースラッシュと4年ぶりの来日で日本を盛り上げたエイドリアン・シャーウッドが、タワーレコード渋谷店6階のTOWER VINYL SHIBUYAに来店。レコードを選盤してもらい、各作とレコード文化への尽きせぬ思いを語ってもらった。聞き手は、ライターの松永良平(リズム&ペンシル)が務める。 *Mikiki編集部
アレサは規格外のシンガー
──では、選んでもらったレコードについて、それぞれお話を聞かせてください。
「1枚ずつやるのかい? わかった。最初はアレサだ。彼女はとにかくすごいアーティストだって言うしかない。俺はアレサが好きだけど、シンガーたちにとっての高すぎる基準でもあったよね。とにかくすごい。だからこれ(ベスト盤※)を選んだ。
エイジアン・ダブ・ファウンデーションのマネージャーをしているボビー・マーシャルは俺の長年の親友なんだ。彼の母親はシャーリー・コリンズ。イギリスではよく知られたフォークシンガーなんだけど、彼女はアレサの歌が大好きだったそうだよ。だから、母の影響を受けたボビーは、俺にアレサをよく聴かせてくれていた」
──コロムビア時代のベストアルバムを選んだんですね。
「さっき、たまたまこれを見つけたんでね。特に深い理由はない。とにかく彼女は規格外のシンガーだから」
カーティスは黒人の誇り高い意識を表明していた
──次はカーティス・メイフィールド『Back To The World』(1973年)です。
「このアルバムがリリースされた頃に買ったと思う。俺は15、16歳だったかな。
これを買った時期、俺はジャマイカ音楽にすっかり夢中だったし、ブラック・アウェアネスやガーベイ運動※、アフリカ回帰のムーブメントに傾倒していた。その一方で、アメリカ社会で起きている公民権運動にも関心を持つようになっていたんだ。
カーティスはそうした動きのなかで非常に重要な役割を担っていた。黒人たちの尊厳、平等、市民権に対する誇り高い意識の表明を行なっていた。
その頃、ベトナム戦争も終わり、たくさんの帰還兵たちがいただろ。特に黒人兵たちは祖国のために戦ったのに、帰国後の扱いはひどいものだった。仕事もなく、ヘロインまみれになって道ばたに捨て去られていたんだ。
このアルバムは、彼らの存在を問いかけたとても重要な作品。現代の市民権の話だけをしているんじゃなく、第一次世界大戦までさかのぼって、ブラックアメリカンたちの尊厳が脅かされる問題が今なお続いていることを晒したんだ。今の俺はレゲエに身を捧げているけど、このアルバムの衝撃は忘れない」