PUNK NOT PUNK
[ 緊急ワイド ]ポスト・パンクの鼓動が、ふたたび
暗黒の煌めきが世界を覆う。我々は不気味なビートに身を預ける以外、なす術はないのか……
ADRIAN SHERWOOD
70年代末、UKにダブを広めた男の足跡
アンダーグラウンド/オーヴァーグラウンド問わず、ベース・ミュージックが重要なキーワードとなっている昨今だが、その祖とも言えるのがエイドリアン・シャーウッドだ。彼は70年代後半よりレゲエ/ダブを基調としたサウンドをUKに根付かせ、自身のレーベル=On-Uを運営しながら、当時のポスト・パンク/ニューウェイヴ・ブームと密接に絡んで独自のスタイルを確立していった。コールド・ファンクと好相性を見せる、鋭利で攻撃的なダブワイズを生み出した功績は計り知れない。そして、そのメタリックな質感のプロダクションはすぐさまシャーウッドのトレードマークとなり、現在に至るまで絶大な影響力を保ち続けている。そう、マーク・スチュワート然り、エイジアン・ダブ・ファウンデーション然り、ピンチ然り、時代ごとのキーパーソンたちから熱烈なオファーを受けてきた事実が、何よりの証拠と言えるだろう。
さて、このたび登場したコンピレーション『Sherwood At The Controls Volume 1: 1979-1984』は、彼の活動初期にあたる79~84年のプロデュース・ワークをまとめた一枚だ。スリッツやマーク・スチュワート&ザ・マフィア、マキシマム・ジョイ、フォール、シュリークバックといったポスト・パンク勢から、アフリカン・ヘッド・チャージにプリンス・ファーライなどのレゲエ・アクトまで、UKの地下実験室で繰り返された邂逅と構築の様子をドキュメントしていて、当時の猥雑かつスリリングな空気がダイレクトに伝わってくるところが素晴らしい。シャーウッドの卓捌きも落としどころがちょうど良いというか、アーティストの個性を活かしながら、しっかりと自分のカラーを残している点が流石。「やりすぎないことがポイント」という、まさに本人のコメント通りの仕上がりになっている。
余談だが、こうしてみると、〈低音〉という共通ワードが時代やジャンルを越えて生き長らえている、UKの音楽シーンの特殊性も窺えて興味深い。低音音楽は永遠なり、である。