いつの時代にもヒットメイカーは確かに存在する。J-Popシーンに限定すれば、現在それに値するクリエイターは2人。1人はYOASOBIでも活躍するAyase、そしてもう1人は水曜日のカンパネラをメインに、多方面でその名を聞くケンモチヒデフミだ。2020年代を迎えて以降、この2人を両翼にJ-Popシーンは前進している、そんな風に捉えても間違いではないように思う。

特にケンモチヒデフミの手掛ける楽曲は、リズムや楽曲のテーマに至るまで他と比較できない、独自の路線をひた走る。6月末からこの7月上旬にかけて、彼の手掛けた作品が一挙にリリースされている状況を見れば、その唯一無二の才能に多くのリスナー、アーテイスト、そして企業までもが注目していることがよくわかる。

ここでは、我々がなぜケンモチヒデフミの音楽に魅了されるのかを、ライターとして活躍する〈月の人〉に考察してもらった。 *Mikiki編集部


 

ケンモチヒデフミ​楽曲の魅力=遊び心とストイックさの調合

今、音楽シーンから強く求められるコンポーザーと言えばケンモチヒデフミの名前が間違いなく挙がる。水曜日のカンパネラ(以下、水カン)のメンバーとして全楽曲の作詞作曲を手掛けつつ、ここ数年で他アーテイストへの楽曲提供の数も飛躍的に増加した。2022年には水カンの“エジソン”がTikTokを中心に驚異的なヒットを飛ばし、ケンモチが手掛けた楽曲への評価はより強固なものとなった。本稿では彼の生み出す楽曲の魅力を紐解いてみたい。

水カンの楽曲と言えば、身近だが意外な題材にひとひねりを加えた、その突飛なリリックが持ち味のひとつだ。これまでも“桃太郎”や“小野妹子”といった意表をつかれるテーマの楽曲で話題をさらってきたが、“エジソン”もまさにその系譜。誰もが知る偉人〈エジソン〉を〈しがないミュージシャン〉に見立てるという奇抜すぎるモチーフで1曲を仕上げている。

水曜日のカンパネラの2022年作『ネオン』収録曲“エジソン”

リスナーが選り好みしそうな題材にもかかわらず、“エジソン”はそのメロディと語感の気持ち良さで並外れたキャッチーさを得ている。〈踊る暇があったら発明してえ〉〈歌う暇があったら発明してえ〉という軽快で歯切れの良いラインを皮切りに、サビにおける〈踊るエジソン 自尊心/歌うエジソン ジソン心〉というキャッチーなリフレインなど、聴き手を惹きつけるフックばかり。それでいてサウンドはフロアライクで堅実なハウスミュージックであり、ユーモアとクールさのギャップによっても中毒性を生んでいく。このバランス感こそが“エジソン”を広く届ける要因だったと考えられる。

つまりケンモチの楽曲の最大の魅力は、遊び心とストイックさの調合と言えるだろう。花譜が7月5日に配信リリースした“しゅげーハイ!!!”は、ヒップホップのトレンドであるドリルビートを取り入れた先鋭的なトラックでありつつ、歌詞の内容は花譜が夢中になっているという〈手芸〉がテーマだ。同時代のポップやラップ、ダンスミュージックを常に意識しながらも、どんな題材でも歌詞で扱えるという点に強いオリジナリティがある。

花譜 × ケンモチヒデフミの2023年のシングル“しゅげーハイ!!!”