君の涙も〈消えたい〉もガマンせずに吐いちゃいな! なぜ彼女が時代のアイコンと化したのか? とことんキュートでエクストリームな『猫猫吐吐』の中には、その答えがひしめき合っている!!
無茶苦茶なものが出来て満足
「最初のアルバムだから、背伸びせずに自分のやってきたことや〈今〉を詰め込もうと決めてました」。
そう当人が語るように、anoの初アルバム『猫猫吐吐』は、ソロ・デビューからの約3年を一望するような作品となった。作詞はもちろん、作曲も自身で手掛ける彼女。音楽好きの家族の影響で中学の頃にレッド・ツェッペリン、ビートルズ、ヴァン・ヘイレン、クイーンなどを聴きはじめたのが、リスナーとしての原体験だという。さらに、楽器演奏や楽曲制作について尋ねてみると……。
「ギターは家にあったものを何となく弾いてみたりはしてました。本格的に始めたのは、前に所属していたグループのとき、ライヴの一週間前に〈ステージで弾いて〉と言われてから。作詞・作曲はいつの間にか始めていました。グループ時代に共演や共作した方々では非常階段さんが印象に残っています。〈こんなに自由な音の使い方があるんだ〉と感銘を受けました」。
以降のanoの躍進は衆知のとおり。タレント、俳優、モデルと活動の場を広げ、音楽の方面でも多くのタイアップ曲を担当するなど話題が尽きない。そんななかで到着した本作は2枚組の仕様で、メジャー以降の楽曲を収めたDisc-1のオープニング“猫吐極楽音頭”は“ちゅ、多様性。”に続く真部脩一 × TAKU INOUEとのタッグ曲。ミュージカルのような場面転換を挿みながら挑発的に加速するパンク・ロックは、情緒が極端に振り切れるキュートな爆発力を備えている。
「無茶苦茶なものが出来て満足してます。歌詞は、自分の負の感情や気持ちを吐き出すことをエンタメに昇華することで、生きづらい世の中を少しでも生きやすくできたらという気持ちで書きました」。
続いては、人気曲を4連打。まずは、TVアニメ「チェンソーマン」の第7話エンディング・テーマ“ちゅ、多様性。”、の子(神聖かまってちゃん)が書き下ろしたバンダイ「たまごっち」のCMソング“涙くん、今日もおはようっ” の2曲。
「“ちゅ、多様性。”は第7話のあるシーンをフィーチャーしていて、昔から〈ゲロ〉をテーマにすることが多かったので作りやすかった。毒がありつつも可愛い音楽表現をチームでめざしました。ゲロの効果音や心臓音など、制作当初に思い付いた音のアイデアを入れ込んでます。“涙くん、今日もおはようっ”は、の子さんのポップだけど切ない唯一無二のメロディーセンスに前々から惹かれていたのもあって、彼に依頼しました」。
そして、尾崎世界観(クリープハイプ)によるアニメ「KUROMI’S PRETTY JOURNEY」のエンディング曲“普変”、アニメ「TIGER & BUNNY 2」のエンディング曲“AIDA”。多彩なバンド・サウンドに乗るanoの歌は、コケティッシュでありながらいたくリアルだ。
「〈言葉〉に対するこだわりに信頼があるので、“普変”は歌詞も尾崎さんに任せたいと思いました。こちらからも自分がいままで歩んできた人生や感情などを、散文で送らせていただいたんですが、出来上がったものは自分のことを説明してくれているような強い歌詞で。これからのライヴでも武器になるような大切な曲だなと感じました。“AIDA”については……相手のためを思ってしたことが、結局スレ違いを引き起こすことってよくあるじゃないですか。自分はひねくれてるから、そういうのは〈愚かでバカバカしいことだな〉という見方をしちゃうんです。アニメもそれに通ずる部分があったし、〈馬鹿〉というストレートな言葉も文脈によってはいいという内容だったので、〈二人はきっと馬鹿さ〉という歌詞を書きました」。
さらに後半に入ると、ファニー&リズミカルなChinozo製の“コミュ賞センセーション”、ケンモチヒデフミと共作したコミカルなエレポップ“スマイルあげない”、ロウなテンションのベッドルーム・ポップ“Tell Me Why”と、anoの捉えどころのないキャラクターが前に出たナンバーも。自然と身体が揺れるユーモラスなダンス・ポップが並んでいる。
「“コミュ賞センセーション”は自分がコミュニケーションが苦手ということもあり、最初に曲名を僕が出して、そこから歌詞の元ネタなどを挙げて構成していきました。上がってきたときはすごくいい曲だなと思ったと同時に、これはライヴで歌えるのか……と楽曲の難易度の高さに驚きました。“スマイルあげない”は、〈マクドナルド〉という大きいテーマがあるなかでそちらだけに偏らず、自分ならではのメッセージ性や学生時代に実際に引きこもっていたときのエピソードを歌詞にしてます。“Tell Me Why”は、お洒落なダンス・ミュージックで新鮮でした。そこと相反した鬱々とした雰囲気も感じられて好きです」。