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今を生きる、リアルなソプラノ

 アルバニアに生まれイタリアで学んだスター・ソプラノ、エルモネラ・ヤオが6月のパレルモ・マッシモ劇場「椿姫」公演のために来日。2010年ロイヤル・オペラ日本公演で惜しくも初日第1幕で降板してしまったヴィオレッタ役に再び挑み、カーテンコールが止まない程の大成功を収めた。

 「前回は母を亡くしたばかりで悲しみを抑えられず、役になりきれなかった。あのとき日本に魂の一部を置いて帰ったみたいでずっと心残りでしたが、今回やっとそれを取り戻すことができました」

 統制のとれた少し憂いを含む美声も魅力だが、役柄の心情をえぐり出すような感情表現と真に迫った演技も素晴らしい。特に第2幕の、アルフレードと別れるよう懇願する父ジェルモンと対峙し絶望のあまり「ではいっそ死にます!」と感情を爆発させる場面などで観客を釘付けにした。

 「彼女の感情は誰もが持っているもの。ヴェルディのオペラには人間の真実が描かれていますね」

ANTONIO PAPPANO, ERMONELA JAHO, ORCHESTA DELL’ACCADEMIA NAZIONALE DI SANTA CECILIA 『プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」全曲』 Warner Classics(2023)

ERMONELA JAHO 『Anima Rara』 Opera Rara(2020)

 今や各地の有名歌劇場から引っ張りだこ。今年リリースされたパッパーノ指揮のプッチーニ「トゥーランドット」補作完全版全曲録音盤(Warner Classics)のリュウ役でも高評価を得たばかり。2020年にOpera Raraからリリースされたデビュー・アルバムでは得意とする「蝶々夫人」のアリアを看板にしつつ、ヴェルディ以降世代のイタリア&フランス・オペラから人気作曲家の知られざる作品を中心に選曲して、オペラ・ファンを唸らせた。

 「近代の作品には血なまぐさい題材もありますが“ある晴れた日に”のように、まだ愛を知らない若い無垢な女性の心情を巧みに描き出すアリアもある……実はいつか日本で『蝶々夫人』の舞台に立つのが夢なんです! ただ激しく叫んでいるばかりじゃなくて抒情豊かな響きも多いので、いわゆるヴェリズモ(真実主義)オペラのアリアが大好き。そんな私のチャレンジをレーベルが後押ししてくれて実現したアルバムです」

 彫刻モデルに恋した青年の恋物語であるマスネ「サッフォー」や、愛する人を求めてパリを彷徨う孤児の姿を描くマスカーニ「ロドレッタ」、極寒の流刑地を舞台とした悲恋もののジョルダーノ「シベリア」など、どれも人間ドラマに溢れている。

 「有名なアリアのひけらかしではなく、隠れたレパートリーにも光りを当てて劇場での上演に繋げたい。オペラは決して古臭いものではなく、今を生きる私たちのリアルな芸術だと世界に示したいのです」