現在、ジャズ的なアプローチをする話題のグループを連続してリリースするPlaywrightから、このたび『Helix』でデビューしたPRIMITIVE ART ORCHESTRA(以下PAO)。bohemianvoodooの木村イオリ(ピアノ)、TRI4THやTHE MANに在籍する伊藤隆郎(ドラムス)、セッション・ベーシストとして活躍中の森田晃平から成るこの3人組もまた、ジャジーでエッジーな音楽を探るリスナーたちの期待を裏切らないだろう。編成はピアノ・トリオだが、「3人でやるけど大きい世界観にしたくて〈Orchestra〉という言葉を入れた」(森田)とのこと。「ヨーロッパ的なジャズを意識しているところは共通している」(木村)としつつ、アンビエント、ロック、クラブ・ミュージックなどさまざまな音楽に影響を受けて活動を展開中だ。
そんな彼らのスタートは「ハード・バップを改めて練習してみようという感じの集まりだった」(木村)という。しかしここ1年くらいで活動が本格化。アルバムのほとんどで作曲を担当した木村は、「ジャズというキーワードで始まりつつ、メンバーの個性が混ざり合って出来上がっている」と語る。
「ある程度、活動が続くとバンドのイメージで自然と制約ができてくる。でもそういう制約を取り払ってここに詰め込んでます。bohemianvoodooとPAOでやってることは全然違うと思います」(木村)。
「個人的にはピアノ・トリオに憧れがありました。ジャズのオーソドックスなフォーマットでドラムが入る形態ではトリオが最小限の形態。TRI4THはジャズのクインテットの形態でリズム・セクションとホーンという形なのでドラマーの立ち位置も違うし、PAOではソリストが3人集まってるという要素を感じてます。それはチャレンジですが、このバンドでそういったチャレンジができて感謝しています」(伊藤)。
さらに特定のグループへの所属がなかった森田は、2人の活動へエールを送りつつ、PAOの独自性にも言及する。
「良い意味でホームができました。自分らしくプレイできる場所があると他の活動をする時もいい。気持ち的にもやりたいことがあって、それができることにすごく感謝してます。あと、2人はそれぞれのバンドでのキャラクターに縛られない活動をしてほしい。bohemianvoodooもTRI4THも格好良くて、キャラクターも確立しているバンドだから、僕は大好きだし応援してます。だからこそ、ここではそれぞれのグループの枠を取っ払った活動をしたいですね」(森田)。
さまざまなビートが表出しつつ奥行きのある音像は、どこか幻想的で耽美なものだ。
「景色が感じられるようなサウンドはめざしたところでもあります。PAOがもしダンスを意識したとすれば、ブラック・ミュージックのダンスというよりもバレエから派生したコンテンポラリー・ダンス。プリミティヴ(=原始的な、素朴な)でもそれが人に向くのか、自然や環境に向くかの違いですね。人が集まってドンドコやるより自然や空間に向かう感じです」(木村)。
「映像的だったり創造性というキーワードはめざしたところでもある。聴くことよりも感じることのほうがプリミティヴな行為。実はバンド名は僕がつけたんですが、この〈Primitive〉という単語をどうしても使いたくて。3人の素朴な部分や根の部分を大事にしたいと思ってます」(森田)。
また木村はジャケットのアートワークにも触れ、「ライオンのロゴは文化を牽引する象徴という意味。ちょっと大げさで恥ずかしいとも思いますがデザイナーさんが提案してくれた。これを使うからにはそうなっていきたいという思いはあります。バンド名も然りで、言わないと始まらない部分もありますしね。PAOではアートの側面からアプローチして聴く人を振り向かせたい」と熱い思いを語る。この秋は現在進行形の音を繰り出す3人のミニマムなオーケストラに要注目だ。
▼関連作品
左から、TRI4THの2013年作『FIVE COLOR ELEMENTS』(Palette Sound/Village Again)、THE MANの2014年作『THE MAN』(ビクター)、木村イオリの参加した島裕介の2013年作『名曲を吹く-Ink Blue-』(アソルハーモニクス)、森田晃平の在籍していたCrimsonの2012年作『world scape』(SPACE SHOWER)
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