“真夏の果実”など茅ヶ崎に響く名曲の数々
夢のような瞬間が出現した“君だけに夢をもう一度”に続いての“東京VICTORY”では、会場の四方から空に向かってレーザー光線が放たれる演出があった。その光の筋がアリーナ上空の宙の一点で交わり、まるで星のように輝いていた。一点に交わっていたのはレーザー光線だけではない。桑田の雄叫びに観客の雄叫びが交わっていく。会場内が一体となってシャウトし、こぶしを挙げて、拍手し、そして歌っている。観客に配布されたリストバンド型ライト〈烏帽子ライト〉も輝き、上からも横からも光が降りそそいだ。
“栞(しおり)のテーマ”、“太陽は罪な奴”、“真夏の果実”、“LOVE AFFAIR~秘密のデート~”、“ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)”と、これでもかと名曲の数々が演奏され、イントロが流れるたびに、悲鳴にも似た歓声が起こった。7月に配信でリリースされた新曲“盆ギリ恋歌”は、妖しいトランペットの響きに導かれるようにして始まった。呪文のようなギターリフ、ロックや音頭や子守歌を融合したようなグルーヴがクセになる。時代もジャンルもミックス、お盆もお祭りもエロも魑魅魍魎もシャッフルした猥雑なパワーを放つ歌の世界をバンドが見事に表現して演奏している。〈江ノ島が見えてきた 俺の家も近い〉など、桑田が念仏のように歌う。茅ヶ崎公園野球場が混沌としたエネルギー渦巻く魔界になったかのようだ。
ジャジーなピアノの演奏に乗って「水に流すのはどうだい?」と即興でブルースを歌ったかと思うと、そのまま“みんなのうた”へ。桑田がホースを手にして、観客に水を撒く場面もあった。かつて恒例となっていた放水の演出の復活で、客席のテンションもさらに高くなっていく。“みんなのうた”をみんなが歌っている。観客が両手を横に振っていて、野球場内が江ノ島の海の波のように揺れている。〈故郷への帰還〉だけでなく、コロナ禍を経て、〈本来のライブへの帰還〉を象徴する場面だった。

「もっとやるかー、茅ヶ崎!」と桑田があおって始まった本編ラストは“マンピーのG★SPOT”。無礼講的な、自在な演出満載のエロティックなロックンロールだ。桑田は〈G〉マークが〈爺〉になった被り物をしている。こんなエネルギッシュでワイルドなベテランがいるだろうか? セクシーなダンサーも登場しての華々しいフィナーレだ。本編が終了すると、拍手、歓声、ウェーブが起こった。
アンコール1曲目は“ロックンロール・スーパーマン~Rock’n Roll Superman~”。最終日のみの演奏とのことだが、ライブという非日常の空間から日常の中へと戻った時に、現実に立ち向かっていくためのエールの歌のようにも響いてきた。“Ya Ya (あの時代(とき)を忘れない)”、“希望の轍”と時代を越えて輝く名曲が演奏されていく。
サザンオールスターズの次なる計画
この日演奏された歌の数々から郷愁の念を感じた瞬間が多々あった。それは、海の波の音を聞きながら育った人が曲を作っているからなのかもしれない。波の音は母なるものの象徴とされている。郷愁の思いは年月を経ても薄れることのないものだ。むしろ、年を重ねて多くの別れを経験することにより、さらに強くなっていくものだろう。
サザンオールスターズの音楽が常にみずみずしく響いてくる要因のひとつは、曲の根底に流れる郷愁ゆえなのではないだろうか。そして郷愁をノスタルジーとして完結させるのではなく、未来に進むための糧とし、希望の歌として描けるところに、サザンオールスターズの素晴らしさがあると思うのだ。
もちろん“盆ギリ恋歌”のような得体の知れない歌もある。理屈抜きで、いつまでもフレッシュかつエネルギッシュな曲もたくさんある。アンコールの最後“勝手にシンドバッド”もそんな曲のひとつだ。一瞬にして、頭の中を真っ白にしてくれる歌。大きな声でのコール&レスポンスで会場内は熱狂に包まれた。
「フレー! フレー! 茅ヶ崎!」というコール&レスポンスが茅ヶ崎の夜空に響く。サンバダンサーが踊り、上手と下手では神輿が担がれ、祭のようなにぎやかな場面が出現した。45年前にこの歌で始まり、45周年のライブをこの歌で閉じるのは、必然的な流れだろう。「10タイムス・ジャンプ!」という桑田のかけ声で、会場内が一緒に10回ジャンプしてのフィニッシュ。

26曲、約2時間半。最後は最新曲“Relay〜杜の詩”をバックにエンドロールが流れた。感動させたり、熱狂させたり、泣かせたり、笑わせたり、驚かせたりの濃密なライブ。会場内の観客をもれなくハッピーにする歌と演奏の連続だった。4日間トータルで7万2000人、全国各地の映画館での2日間のライブビューイング参加者が各約10万人でトータル27万2000人。〈茅ヶ崎ライブ2023〉はこれで終演となったが、バンドにとってはあくまでもひとつの区切りだろう。
桑田からこんな言葉もあった。「たくさんの方のご理解とご協力があって、4日間ここまでやることができました。幸せでございます。ありがとうございました。また楽しい逢瀬が叶いますように、サザンオールスターズ、次なる計画を練りまして、ご報告することをお約束します」。