©Warner Classics / Erato

声とリュートの出会いから生まれたフランスの愛の歌

 フランス・オペラ界の新星、レア・デザンドレはそよ風のように心地よい美声の持ち主。ほっそりとした身体つきだが流れ出る声音はとても濃く、明るい輝きも宿すメゾソプラノである。

 そのデザンドレが9月に日本でリサイタルを開催。音楽の良きパートナーであるリュート奏者トーマス・ダンフォードと共に、恋愛の歌をイタリア語とフランス語で歌い上げ、大評判を得た。

 実は、フランスとイタリアのハーフであるデザンドレ「両親は映画界の人なの。私もパリとヴェネツィアで歌を学びました!」と語り、「フランス語は母音が多いでしょう? イタリア語の母音の数はもっと少ないから本当に歌いやすいのね。でも、フランス語で歌うと〈テクストとドラマの意味を突き詰めるための言葉かしら?〉と感じます」とさらっと口にした。

 彼女の発言に微笑んで頷くダンフォード。実は彼も米仏のハーフであり、「アメリカ人の父は僕をトーマスと呼び、フランス人の母はトマと呼ぶんだ(笑)。二つの文化で面白い経験をしてきました」と語り、楽器を弾きながら英語と仏語で即興的に歌い「英語の方が音楽に乗りやすい!」と語った。

 そこで筆者が「この楽器は大きなリュートですか? テオルボには小さく見えますが音は明るいですね」と訊ねると、彼は顔をほころばせ「アーチリュートです。リュートとテオルボのハイブリッド的な楽器ですが、皆さんなかなか気づかないから嬉しい! 今度のレアの新録音もこのアーチリュートで伴奏したんだよ」と答えてくれた。

LEA DESANDRE, THOMAS DUNFORD 『Idylle』 Erato/ワーナー(2023)

 そう、この10月、デザンドレとダンフォードのジョイント・アルバム『Idylle』が発売予定。タイトル通り、フランスの様々な愛の歌を集め、時代は300年に跨り、17世紀の大作曲家の歌曲からバルバラの人気のシャンソンまで、幅広い選曲が魅力的である。

 デザンドレ曰く「コントラストをつけたくて、バロック期のマルカントワーヌ・シャルパンティエの曲からオッフェンバックやメサジェのお色気路線のオペレッタ、近代のアーンの歌曲など選びました。様々な愛の形を気軽に楽しんでみて下さい」とのこと。ダンフォードも「サティの曲をアーチリュートで弾くなど、僕のソロも少し入れました。レアとデュエットする曲もあるんですよ」と言葉を添え、同盤にも収録の“ジムノペディ第1番”をその場で披露。艶やかな、でも素晴らしく落ち着いた音色に、こちらも聴き惚れた。この二人の気取らぬ心と自然体のスタイルを、新盤『Idylle』でぜひ、味わってみて欲しい。