Page 2 / 2 1ページ目から読む

初代ゴジラ特有の生き物らしい感情変化

この傑作を傑作たらしめる要因のひとつとして、作品全体がSFらしからぬ生々しい感触に貫かれている点を挙げることができよう。ドラマ部分に目を向けても、ゴジラの襲撃を受けた都民らが収容されている救護所のシーンなど戦争の記録映画を思わせるリアルさがあったし(監督の本多猪四郎はみずからの戦争体験をそのシーンに投影したという)、なによりもゴジラの皮膚などの造形や身振りや顔つきといったものがいちいち生命感に溢れていて、こちらの目を大いに刺激するのである。このあたりは、ストップモーションアニメ(コマ撮り)で作られていた「原子怪獣現わる」と大きく異なった印象を与える。

日本の怪獣映画を支え続けた縫いぐるみ(着ぐるみ)ならではの表現として、生き物らしい感情変化、エモーションがより浮かび上がってくる、ということがしばしば語られるが、第1作目の「ゴジラ」ほどその成果が顕著に表れた作品はなく、人類の横暴によって太古の眠りから呼び起こされてしまった哀しみや、たえず孤立した存在であることの寂寥感といったものをゴジラの背びれに見出してしまうのである。

物語のラストで、オキシジェンデストロイヤーという恐怖の兵器によって海の藻屑となってしまうゴジラを目の当たりにした原作者の香山滋が、〈ゴジラが可哀相だ〉とさめざめと泣いていたというエピソードからも伝わってくるように、彼が背負わされたカルマの大きさに気付く苦い勝利から、拭いようのない痛みを知るのである。

やがて時が経つにつれ、デパートの屋上で行われる怪獣ショーなどのメインアクトとしても子供たちの人気者となっていったゴジラは、好敵手であるモスラに説き伏せられ、脱悪役路線へと移行。作品の傾向も新怪獣とのファイティングシーンに重きが置かれ、エンターテインメント志向が濃くなっていくわけだが、とかく地球は住みにくい、といったボヤキだけはずっと変わらず発し続けているように思う。

 

昭和最後のゴジラが見せた態度

そんなゴジラのボヤキが暴力的なアクションとなって顕在化した作品に、誕生30周年記念作として1984(昭和59)年に公開された昭和最後のゴジラ映画「ゴジラ」がある。

橋本幸治, 田中健 『ゴジラ(1984年度作品)』 東宝(2019)

ひさびさの復活作となった本作でゴジラが見せた態度は、人間たちを容赦なくシバキあげていく実に極悪非道なもの。身長も以前の50メートル台から80メートル台へと巨大化し、威圧感も格段にアップ。核に対する恐怖心がモチーフになっている部分も含めて原点回帰的内容となっているが(当時米国とソ連は冷戦状態にあり、レーガン政権が軍事支出拡大を実施していた)、目覚ましい発達を遂げた都市の風景のなかに立つゴジラが纏う哀愁はいっそう色濃くなり、消えてなくならなければならない宿命もひときわ悲しく浮かび上がっている。

その後、平成シリーズやハリウッド版リメイクなど数々のゴジラムービーが制作されているが、昭和を生きたゴジラのみが感じさせる風情や情緒に惹き付けられっぱなしだと語るファンは、いまも数多くいる。そんな彼らが昭和を舞台とした最新作「ゴジラ-1.0」にいかなる反応を示すのか、それを確認するのも楽しみのひとつであったりする。

 


MOVIE INFORMATION

「ゴジラ-1.0」
公開日 : 2023年11月3日(金・祝)
キャスト:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介
監督/脚本/VFX:山崎貴
音楽:佐藤直紀
制作プロダクション:TOHOスタジオ、ROBOT
配給: 東宝(株)
©2023 TOHO CO., LTD.
オフィシャルサイト:https://godzilla-movie2023.toho.co.jp