ゴジラがシネコンを蜂の巣にする!
サラウンドが家庭や映画館に定着して随分たつ。システムのヴァージョンも世代もさっさと更新されて、きがつけば頭上からも音が鳴り響き、会場が爆風に揺れる体感型シネマが話題を呼ぶそんな今日このごろ、である。振り返れば我々ゴジラ第一世代は大画面と大音響のたった二つを頼りに日常を脱し、命からがら修羅場をかいくぐったのである。その上映画に色がついたのはシリーズ第3作目だったから漆黒の空間の中、白と黒のグラデーションが描く炎上する都市と怪獣どもの蠢きを視覚的に実感するのはちょっと大変だった。それでも当時は伊福部昭の音楽と怪獣の声などを模した効果音が我々の想像に色彩をにじませ、背景に奥行きを与えた。そしてその二つはゴジラのみならず、当時の怪獣や特撮映画すべてにおいて製作者の工夫と知恵が生きる創造領域であったし、アナログからデジタルへと制作・再生環境が移行した現在もそれは変わらないだろう。
BEAR McCREARY 『Godzilla: King Of Monsters (Original Motion Picture Soundtrack)』 WaterTower/ワーナー(2019)
ゴジラ、あるいは怪獣映画が面白いのはリアルに非リアルが介入するからではなく、その逆だからなのではないか。我々は完全にでっち上げられた空間に時折リアルを垣間見るから、驚くほど現実と乖離した空間に酔うことができるのだと今回の新ゴジラを観てそう思った。〈モンスターバース〉と名付けられたこのシリーズでは、かつて日本の都市や南海の孤島に怪獣がばらまかれたように、世界中の都市に怪獣が放たれる。つまりリアル指数はこれまで以上に減り空想指数が怪獣の数だけめきめきと上がったのだ。その結果、空想の生き物である怪獣の数に見合う、聞いたこともないような咆哮や嘆き、囁きをリアライズしたエレクトロアコースティックが、数々の衝撃音とともに劇場の空間を埋め尽くす。そしてこのケオティックな音響空間をハーモナイズしこの物語に詩をもたらすのがスコアを担当したベア・マクレアリーの音楽である。ゴジラ映画の伝統節である古関裕而のモスラ、伊福部のゴジラも取り入れて感動的な叙情詩のような音楽に仕上げた。
MOVIE INFORMATION
「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」
監督:マイケル・ドハティ
脚本:マイケル・ドハティ/ザック・シールズ
出演:カイル・チャンドラー/ヴェラ・ファーミガ/ミリー・ボビー・ブラウン/サリー・ホーキンス/渡辺謙/チャン・ツィイー ほか
配給:東宝
2019年5月31日(金)より全国東宝系にて大ヒット公開中
https://godzilla-movie.jp/