「楽しんでもらうこと」を大切に。 多彩なジャンルがつまったベスト盤

 岡本知高のベスト盤『あなたに太陽を~CDデビュー20周年記念ベスト』は、後半は代表曲だが、前半は表題曲の“あなたに太陽を”から始まり、新録曲という編成で15曲を収録。しかも天賦のソプラノ・ヴォイスを軸に選曲は多彩というか、クラシックからオペラ、昭和のニューミュージック、歌謡曲など幅広く、そこに20年の足跡とともに彼の音楽性が濃密に感じられる。

 「この曲いいなとか、この声いいなという感動の出会いが日々あって、もし、この曲を自分が歌ったらどうなるかなと考えるのが僕の楽しみで、その出会いをメモしたリストがあるんですね。クラシック出身ではあるけれど、原点は子供の頃に聴いた昭和ポップスだし、音楽の基準が故郷のおじちゃん、おばちゃんが楽しめるというところにあるので、こうやってジャンルが入り混じるのは自然なこと。どうしてもゴチャッとはするよなと自分でも思っています(笑)」

岡本知高 『あなたに太陽を~CDデビュー20周年記念ベスト』 ユニバーサル(2023)

 活動の中心がコンサートにあるので、観客に楽しんでもらうことを何よりも大切にしている。新録の中にある“World in union”を日本語で歌ったのもそこに理由がある。

 「“World in union”はラグビーW杯のテーマ曲で、ノーサイドの精神とか、そこから広がる世界平和へのメッセージなどが描かれている曲です。その歌の内容が大好きで、コンサートで歌ってきたんですけれども、日本語だともっとわかりやすいというお客さまの声があったので、じゃあ半分くらい日本語でと思っていたら、9割9分が日本語の歌になりました。もちろん原語で歌う方が作曲家の意図に添えるだろうし、アクセントや息継ぎの位置を変える必要もないので、理想ですが、でも、伝えることが我々歌手の仕事。それを大切にしたいし、日本には俳句や短歌の文化があるので、訳すことでたとえ歌の情報量が減っても想像力を膨らませて、メッセージをキャッチする能力があるので、大丈夫だと思っています」

 多彩なジャンルが詰め込まれたベスト盤の中盤で、“やさしさに包まれたなら”、“切手のないおくりもの”、“いのちの歌”、“春なのに”という日本語の歌が4曲続く。彼の「伝えるのが我々の仕事」という言葉が思い浮かぶような編成である。

 さて、アルバムのタイトルにもなった新曲“あなたに太陽を”は、Kiroroの玉城千春が書き下ろしたオリジナル楽曲になる。

 「僕のライフワークのひとつとして小・中・高校でのコンサートがあるんですが、そこで必ず歌うのがKiroroの“未来へ”なんですね。その歌を通して勝手に親密感を持っている玉城さんに作曲を依頼したところ、私の高松公演に来て下さり、さらに終演後に岡本さんのことをもっと知らなくてはいけないという気持ちになったと、僕と一緒に高知まで。そこで千春さんとウチの母がいろいろ話して、母の運転で所縁のある場所を訪ねて、そうやって生まれたのがこの曲なんです」

 そして、渡された歌を聴くなかで、「ルルル~♪」と歌うところで「これは僕がお腹の中にいた時に母が歌ってくれた子守歌だよな」と感じたことから、コーラスに岡本さんのお母さまが初参加することになったという。

 ソプラノ歌手としての将来を嘱望されて、世界の有名劇場に立つことを勧められても「それは僕の望みではない」と、今の道に進んだ岡本知高が大切にしていることは「聴き手に楽しんでもらうこと。歌を自分の色にして、自分の言葉として表現すること」。そして、彼自身が歌っている時、たとえ同じ歌でもあっても「毎回違う風景が見えているんですね。それは僕自身が呼び寄せているものではなくて、僕の引き出しが勝手に開いて、日常生活では絶対に思い出さないことが蘇ってきて、それが情景として映し出されるんです。それが僕には楽しくて仕方ない」という。

 これが聴き手それぞれの解釈が膨らむ豊かな歌の背景にあること。その歓びを存分に楽しませてくれるベスト盤ではないか。

 


岡本知高(Tomotaka Okamoto)
1976年生まれ。高知県宿毛市出身。変声後も強靭なドラマティック・ソプラノの音域が自然に維持され続けている世界的にも大変希有な〈天性の男性ソプラノ歌手〉。国立音楽大学を卒業後、フランスのプーランク音楽院を首席で修了。心の深淵に温かく響く唯一無二の歌声は〈奇跡の歌声〉と称され、個性的なキャラクターとコスチュームも併せてクラシック界にとどまらず各方面からの呼び声も高い。そのレパートリーは幅広く、宗教曲、オペラ、クロスオーバー、日本の唱歌やポップスと多岐にわたり、2006年より担当し続けているフジテレビ フィギュアスケート中継テーマ曲“ボレロ”ではまさにその真骨頂を聴くことが出来る。また、大学時代よりライフワークとして取り組んでいる全国各地の学校訪問コンサートは年間数十公演に及び(※コロナ禍以前)子供達とのふれあい活動にも尽力している。

 


LIVE INFORMATION
CDデビュー20周年記念 Concerto del Sopranista 2023-2024

2023年12月14日(木)大阪・フェニーチェ堺 大ホール
開場/開演:17:45/18:30

2023年12月16日(土)兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
開場/開演:15:15/16:00

2024年1月25日(木)東京・文京シビックホール大ホール
開場/開演:18:00/18:30

曲目:World in union、切手のないおくりもの ほか
https://www.okamototomotaka.com/