「目標はオペラ歌手、パヴァロッティを尊敬します」――マラカイ・バヨー

 2023年4月、英国ITVの番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」で審査員、司会者が〈1シーズンに1度だけ押せる〉というゴールデン・ブザーを鳴らして決勝戦に進出した14歳のボーイソプラノ、マラカイ・バヨーが名門少年合唱団〈カーディナル ヴォーン スコラ カントラム〉の一員として8月に初来日した。オーディション映像の再生回数は900万回に達し、ユニバーサルミュージックが速攻で契約。6月にシングルリリースした“ピエ・イエズ”(ロイド=ウェバー)がUK配信チャートのトップに躍り出たのに続き、7月21日にはデビューアルバム『Golden』を世界同時発売した。

MALAKAI BAYOH 『Golden』 Decca/Universal Classics And Jazz/ユニバーサル(2023)

 リハーサル会場近くのホテルに現れたマラカイ君は2009年ロンドン生まれ。「7歳の時、母が僕をサザークのセント・ジョージ大聖堂の聖歌隊に連れて行ったのが始まりです。さらにカーディナル・ヴォーン・メモリアル・スクールに通い、オペラの勉強も始めました」。すでに2022年11月、ヘンデルの歌劇「アルチーナ」(リチャード・ジョーンズ演出)のオベルト役で、コヴェントガーデンのロイヤルオペラハウスにデビューしている。「魔笛」(モーツァルト)の童子役も経験済みだ。「演技だけでなくダンスも学んでいましたから、あがることはありません。将来はオペラ歌手を目指しています。もしダメなら俳優かセラピスト。とにかく人の心を読む仕事が好きです」

 ボーイソプラノには変声期という難関が待ち構えている。それでもドイツのドレスデン十字架合唱団のようにペーター・シュライヤー、ルネ・パペら後の大オペラ歌手へと、順調に育てている少年合唱団は存在する。マラカイに同行した指導者、スコット・プライス氏は「私たちのスコラ カントルムでも変声を慎重に見極め、決して無理をさせず、落ち着いたら徐々に大人のレパートリーへと移行させるサポート態勢を整えています」と説明する。マラカイが「最も好きな歌手」として目標にするのはただ一人、「ルチアーノ・パヴァロッティさん」。理由は「ベルカントの世界が大好きだからです」

 初来日は一般社団法人日本少年合唱協会の招きでカントルムの仲間3人と先生、合わせて5人のチームで札幌、名古屋、東京を回った。「大好きなテレビゲーム、任天堂の国を初めて訪れ、オフタイムに本場の寿司をたくさん食べられたのは幸せでした」。9月にはロンドン名物、BBCプロムナードコンサート(プロムス)にもデビューした。