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自分がクリープハイプの音楽を聴くようになるとは思っていなかった。彼らの曲と初めて出会ったのは高校生の頃。文化祭で、クラスメイトがヴォーカルを務めるバンドが“ただ”を演奏しているのを聴いた。その時から少しの間プレイリストに入れていたが、それ以降しばらくクリープハイプの曲を耳にすることはなかった。
数年が経ち、書店で目立つ場所に置かれていた尾崎世界観さんの書籍をたまたま手に取った。それは作家・俳優・ミュージシャンなどさまざまな分野で活躍するゲストとの対談集だった。私的な感情を歌い、多くの共感を得たバンドのフロントマンが、常に〈いいもの〉を作らなければいけないプレッシャーと闘い、身を削るようにライヴをしていることを知り、もっと曲を聴かなくてはいけないと思った。
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久しぶりに音楽配信サービスでクリープハイプの画面を開き、すべての曲をシャッフル再生してみた。音に乗った文章を辿るように聴き進めていくと、諦めや羞恥心など、生きていて感じるもっとも身近で、もっとも遠ざけたい感情を引きずり出されるような感覚になり、抜け出せなくなった。〈言葉〉が自分にとってより特別な存在になっていった。
クリープハイプの現メンバー15周年記念のトリビュート・アルバム『もしも生まれ変わったならそっとこんな声になって』では、ゆかりのある11組のアーティストによって、名曲たちが再解釈されている。
アルバムのタイトルを見て、とあるインタビューで尾崎さんが「歌詞の伝え方とはすなわち音の作り方である」と語っていたことを思い出した。歌詞は感情を音にしたもので、それに人は喜怒哀楽を感じる。だから、突き詰めると歌詞は音以上の何物でもない、と。そう主張していた尾崎さんの言葉とクリープハイプの音楽が、このアルバムではさまざまな声で歌われ、新たな音をつくっている。とても貴重な作品に出会うことができたんだ、と確信した。
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特に“社会の窓”を、この曲にピッタリなanoさんが歌ってくれて嬉しい。リスペクトと愛に包まれたとにかく凄いトリビュート・アルバムは、一生私のプレイリストに残り続けるだろう。
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【写真と文】hana:8人組のHIP HOPユニット、lyrical schoolでMC/ヴォーカルを担当。lyrical schoolでは現体制での初作『DAY 2』(ビクター)に続き、待望の新曲“dance”が配信中。5月から続く〈DAY 2 TOUR〉も10月14日のSpotify O-WESTでいよいよファイナルを迎えます。最新情報は〈https://lyricalschool.com/〉にて!