こんばんは、サブトラクトです。豪華な招待客が甘美な歌心を満載し、彩り豊かなグルーヴが皆さまを別天地へとお連れすることでしょう。そんな新しい仮面舞踏会はきっとあなたと……

 仮面を身につけた謎の男、サブトラクト――その姿は、2011年にアルバム・デビューし、瞬く間にジェイムズ・ブレイクのファースト・アルバムと共にポスト・ダブステップにおけるアイコンのひとつとなった。The xx、そして後続には話題の歌姫、FKAツイッグスが連なるなど、クラブ・ミュージックとポップ・シーンのもっともカッティング・エッジな交差点とも言える存在となったレーベル=ヤング・タークスから送り出されたことも大きい。

 その初作『SBTRKT』で展開されたのは、UKファンキーによってダブステップから呼び戻された、UKガラージ/2ステップの遺伝子の発露とも言うべきものだ。そのリズム感はしなやかでいて軽快、そこに相棒のキーボーディスト兼シンガーであるサンファやジェシー・ウェアといったヴォーカルが花を添えている。その動きは間違いなくディスクロージャー、そしてジェシーら、ポスト・ダブステップ時代における〈R&B〉の、その後のブレイクに筋道を付けたと言っても過言ではないだろう。

2011年作『SBTRKT』収録曲“Hold On”

 またジェイムズ同様、サンファとのタッグでのライヴ活動は、彼の活動をダンス・フィールドのみならず、より広く伝播したことは間違いないだろう。

 そして本題である。こうしたなかで、3年ぶりにリリースされたのが今作『Wonder Where We Land』だ。オフィシャル・インタヴューでの本人の発言も交えて、その内容に迫っていこう。

SBTRKT 『Wonder Where We Land』 Young Turks/HOSTESS(2014)

 やはり目を引くのは、その豪華なゲスト陣だ。「ジャンルを越えて何かに挑戦してみたいし、それに賛同してくれる人といいものを作りたいって気持ちが強いんだよね」という本人の言葉通り、その人選は実に多彩で豪華。朋友のジェシーやサンファはもちろん、ヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ・クーニグ、USヒップホップの台風の目たるエイサップ・モブからエイサップ・ファーグあたりを最大の振り幅に、NYのシンセ・ポップ・バンドであるチェアリフトの(最近ではビヨンセにも楽曲を提供する)キャロライン・ポラチェック、LAのアート・ロック系女性バンドのウォーペイント(あのクリス・カニンガムの奥方が在籍)といったロック系の才女たち、さらにはグラスゴーの若きテクノ系プロデューサーであるコアレス、「インターネットでリサーチしてるなかで見つけた」という弱冠17歳のアトランタのラッパー、ラウリー――まさにスターから新人までさまざまだ。こうした人選で作られた各曲のサウンドも、ファーストに比べると否が応にも多様になっている。

 「前作に関しては、いかにシンプルな作品を作るかを目標としていたから、すべてに関してミニマルな要素で留めていたんだよね。いろんな要素をサブトラクト(引き算)していたんだ。(新作は)いろんなレイヤーを組み合わせたり、聴いたら頭がいっぱいになるようなサウンドになってる気がする。ジャンルに関しても、自分に対して抱かれている固定観念的な要素からは離れたかったんだよね」。

 この言葉通り、本作はさまざまな色を帯びている。その象徴的な部分はやはりリズムだ。エズラ参加のトラックはもはやテクノである。全体的に言えば、UKガラージ的なステッパー・リズムは後退し、ここ最近リヴァイヴァルが噂されるダウンテンポ的なリズムをシンプルに響かせている感覚がある。前作の頃の実にダンサブルな雰囲気よりは少々落ち着いた印象もあるが、そのあたりはより自由なアーティストとしての創造欲の表れと言うべきところではないだろうか。とにかく本作を聴くにつけて思うのは、もはや彼の音楽性を説明するに、ポスト・ダブステップという言葉は適切でなはなさそうだということ。すでに次なる何かに進みつつある、そんな感覚が渦巻くアルバムだ。

 

▼関連作品
左上から、SBTRKTの2011年作『SBTRKT』(Young Turks)、サンファの2013年のEP『Dual EP』(Young Turks)、ヴァンパイア・ウィークエンドの2013年作『Modern Vampires Of The City』(XL)、ジェシー・ウェアの2014年作『Tough Love』(Island)、エイサップ・ファーグの2013年作『Trap Lord』(A$AP Worldwide/Columbia)、チェアリフトの2012年作『Something』(Kanine/Columbia)、ウォーペイントの2014年作『Warpaint』(Rough Trade)、コアレスの2013年のEP『Yugen』(Young Turks)
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