〈ネクスト・サム・スミス〉とも称された聖なる歌声と、UKの坩堝で育まれた折衷的なビート。感情の揺らぎと進化の過程を刻み込んだ『Process』が、ついにその美しき全貌を露にする……
自分の声をもっと使おう
クロスオーヴァー(交配)というよりエクレクティック(折衷)と言うべきか。英国のサウス・ロンドンはモーデン出身のサンファは、現行アーバン・ミュージックにおける越境性を象徴するようなシンガー/ソングライターだ。ドレイクの『Nothing Was The Same』にて“Too Much”で声を交え、同曲を共作したエミール・ヘイニーの“A Kiss Goodbye”にデヴ・ハインズと共に参加。また、チャンス・ザ・ラッパー~リック・ルービンを経由して知り合ったというカニエ・ウェストの近作『The Life Of Pablo』(のアップデート版)で披露された“Saint Pablo”に客演すれば、仲間のプロジェクトに参加して録音済みだった歌がフランク・オーシャン『Endless』収録の“Alabama”で使われ、ガーナやニューオーリンズで一緒に録音したというソランジュの『A Seat At The Table』では制作に加えて“Don't Touch My Hair”で共演も果たすなど、昨年の顔となったアーティストにことごとく関わっている。以前に比べてソングライターやプロデューサーといった裏方に対する関心が薄まりつつある昨今だが、流石にこれだけの話題作に関与してきた男となれば注目が集まらないわけがない。
シエラレオネ共和国からの移民である両親のもと5人兄弟の末っ子として生を受けたサンファは現在27歳。独学でピアノを習得する一方で、13歳から趣味でプロデュースを始めてグライムのビートを作るようになったというが、10代初めまで学校の聖歌隊やジャズ・バンドで歌っていたもののシンガーとして活動していこうとは思っていなかったようだ。実際、2010年に発表したデビューEP『Sundanza』も、ワイリーと同時にフライング・ロータスを好むという彼らしいセンスで仕上げたインスト主体のビート・ミュージック。「プロデュースが続けられればそれでよかった」(以下、発言はオフィシャル・インタヴューから抜粋・要約)と語る彼は、しかし、「SBTRKTやジェシー・ウェアとのコラボで自分の声をもっと使うようになっていったんだ」と、徐々に歌うことに積極的になっていく。他にもケイティB、リル・シルヴァらの作品に招かれ、コアレスとのショート・ストーリーズとしても楽曲を発表。自国のアーティストとのコラボを行うなかでシンガーとしての活動を増やしていくわけだが、スモーキーなのに透明感があり、どこか眠たげでありながらエッジの立った歌声は余技として片付けられないほど説得力があり、ヴォーカリストとして活躍するのも必然だったと言ってしまいたい。