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独自の道を歩むリュカ、2年ぶり7作目の新録はフォーレ!

 リュカ・ドゥバルグは、先が読みにくいピアニストだ。演奏家のレパートリーの広げ方は人それぞれだが、その方向性を勘ぐれば、次はこんな作品に挑戦するだろうという憶測がつくもの。しかし、彼の場合、まったくそれがわからない。尻尾を掴ませない。

 2019年には、いきなりスカルラッティのソナタ集をリリース。4枚組のディスクで、52曲を弾く大企画だった。2021年のミロシュ・マギン作品集も意表をつくアルバムだ。

 それから2年半。リュカの新しいアルバムはフォーレ。しかも、ピアノ独奏曲すべてを4枚組に収める。対象をとことん突き詰めなければ気が済まないのだろう。

LUCAS DEBARGUE 『フォーレ:ピアノ独奏曲全集』 Sony Classical(2024)

 18歳頃の作“3つの無言歌”から、76歳の最後のピアノ曲“夜想曲第13番”まで、作品番号順に並べる。順番に聴けば、その作風がいかように変化していったかがつぶさにわかる。ロマン派の香り芳しい作品から、半音階などを交えて独自の語法を開発していった時期を経て、新しい和声を求めてさらに複雑化していった作品まで。その流れがグラデーション状に変化していく面白さ。

 じつにニュアンスに富んだ演奏だ。“即興曲第4番”では、モチーフが出るたび、色彩を変え、前後に位置を移すなど変化を繰り返す。響きを構成する音、ブレンドの具合、すべてが透けてみえるよう。

 ピアノの選択も、彼の解釈に大きなアドバンテージとなった。リュカが弾くのは、ステファン・ポレロのオーパス102という楽器。102鍵のキーをもち、平行弦が張られている。和音の分離度はすこぶる高く、ニュアンス変化に対してもかなり敏感に反応する。

 たとえば、“バラード”での鋭さと柔らかさの驚くべき対比。後期作品になると、スクリャービンを思わせる色彩性をも帯びる。“舟歌第5番”の打ち寄せるような激情も、クリアかつ鮮やかに波立たす。

 彼がこの先どこに行くかは誰も知らない。けれど、聴けばその世界にずっぼり入り込める。それがリュカ・ドゥバルグという人の音楽だ。