Photo :Yann Orhan

クレーメル、ゲルギエフらに才能を見いだされた、注目の新鋭ピアニスト

 研ぎ澄まされた感覚をもつピアニストだ。いや、演奏家はみな感覚を優先するが、この人は、自分の感覚に影響を及ぼしそうなロジックとか、理性といったものから、神経質なまでに距離を置こうとする。

 彼の最新アルバムは『シューベルト・シマノフスキ』。2人の作曲家のソナタ作品を収録しているが、この組み合わせも、様式やスタイルからの視点や知的なアプローチからではなく、「あくまでも感覚的に選んだ」。とはいえ、「実際に演奏すると、シューベルトはウィーンの作曲家、シマノフスキもこの曲をウィーンで書いたことで、この地の民謡や舞曲などの影響が著しく盛り込まれていることを強く感じた」という。

 さらに、「この2人の作品は、心地良い旅に連れて行ってあげますよ、といったような、手招きする音楽ではありません。厳しく、意地だって悪く、アイロニカルなところが共通点といえるかもしれない」とも。

 11歳でピアノを始めたリュカ・ドゥバルグだが、そのキャリアはちょっとユニークだ。たとえば、10代の終わりに差し掛かった頃にはピアノをやめ、大学で理学や文学を学んでいる。ピアノに復帰した理由について彼はこう語る。「何かしなければならないと思ったとき、何の疑いもなく、自分の前に音楽があった」

 2015年のチャイコフスキー国際ピアノ・コンクールでは4位ではあったものの、ギドン・クレーメルやヴァレリー・ゲルギエフらにその才能を見出され、共演者として数多く招かれることに。

 これまでソニーから3枚のソロ・アルバムをリリースしている。いずれも収録された作曲家の名前を並べただけのタイトルだ。「音楽はメッセージとして、それだけでも強いものだと思います。そこにタイトルでメッセージ性を付け足す必要は一切ありません」

LUCAS DEBARGUE シューベルト・シマノフスキ Sony Classical(2017)

 今回のアルバムで、数あるシューベルトのソナタのなかから、この2つを選んだのは、それぞれのソナタが何かしらのスタイルとして整理できるのに対し、「孤立し、独立したもの」だったからだという。「こじんまりとはしているが、スタイル的にとても独得な展開をしている。これもいかにもシューベルトらしい」

 シューベルトのソナタ第14番は、モノトーンで強弱のコントラスト激しく、第13番は音色も華やかにと描き分ける。そして、複雑に書かれたシマノフスキのソナタには、ベートーヴェンを思わせる熱気をはらむ。「自分にとって、もっとも大切な作曲家はベートーヴェン。一番影響を受け、今でも打ちのめされる」

 メシアンの《四重奏曲》もリリースされる。この作曲家については「興味はあったが、弾くのは今回が初めて」。しかし、その華麗な音色はまさにメシアン向き!