リュカ・ドゥバルグ
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20世紀ポーランドの音楽家ミロシュ・マギンの音楽に、ダブル鬼才が光を当てる

 広大なペーラシェーズ墓地。ショパンの墓のすぐ近くの一等地に、ミロシュ・マギンは眠っている。ショパン同様ポーランドからパリに出てきて活躍したピアニストだ。名教師とも知られていたマギンだが、作曲家としての顔はすっかり忘れられていた。

 その知られざる作曲家のアンソロジーを編んだのは、リュカ・ドゥバルグ。シューベルトやシマノフスキ、バッハにメトネルなど自在に組み合わせるアルバムを連発、近年にはスカルラッティのソナタをまとめて50曲録音してしまうなど、鬼才っぷりを存分に発揮しているピアニストだ。

 鬼才が鬼才を呼ぶ。そんなドゥバルグの才能を見出したヴァイオニリストのギドン・クレーメルも、このアルバムのもう1人の主人公。そもそも、ペルトやヴァインベルクなど、前衛がメインストリームだった20世紀音楽におけるオルタナティヴな作曲家に光を当て続けたのは彼だった。そして、戦後ヨーロッパで調性音楽を書き続けたマギンも、そんな作曲家の1人といっていい。

LUCAS DEBARGUE, GIDON KREMER, KREMERATA BALTICA 『ミロシュ・マギンの世界』 Sony Classical(2021)

 マギンの音楽は、ポーランド由来の舞曲リズム、感傷的なアダージョ、そしてバルトークを思わせる強靱なアレグロが古典的なスタイルのなかに収まっている。なかでも、ピアノ協奏曲第3番は、超絶技巧のソロから始まり、オーケストラとの丁々発止の掛け合いが凄まじい。緩徐楽章はぐんと抒情的になり、終楽章はプロコフィエフ風だが、シニカルさよりも実直な音楽性が引き立つ。

 クレーメルがソロを弾くヴァイオリン協奏曲も面白い。とりわけ、冒頭楽章はロンド風に様々に音楽が変化し、やはり独奏楽器とオーケストラが目まぐるしく掛け合うのが愉快。

 そうした大曲の合間に奏でられるピアノ小品やデュオ作品。ドゥバルグとクレーメルが身を乗り出し、アルバム・タイトルである〈Zal〉(悲しみ)を濃密に描き、ノスタルジーを香り立たせる。さまざまな意匠を凝らしてはいるものの、いずれの音楽からも作曲家のスレてない人柄が伝わってくる。鬼才たちを引き寄せるのは、こうした音楽への素直な姿勢なのだろう。