ウィリー・ネルソン。カントリー界のレジェンドでありスーパースターであろう。その新譜を聴いてみた。「国境」と名づけられた、それだけでなんだかワクワクしてしまう。そして流れてくる音は尖ったところがなく、シンプルで穏やかなもの。まるで人口調味料ではない、出汁が良く効いた最上の料理を食べているようだ。カントリーのカテゴリーには収まらない曲をいつもの「語るような」歌い方で物語を紡ぐ。“Lonesone Highway”とか“Lonesome Road”など長距離ドライバーが聴いたら涙ぐみそうなワードが散りばめられて、なんだか自分までその気になってしまいそうだ。
クリント・イーストウッドより3つも若いウィリー翁。2024年春の新作は、ロドニー・クロムウェルの表題曲ほかカントリー界の優秀なソングライターたちのカヴァーとバディ・キャノンとの共作曲などで構成されているが、透徹した視点で人間存在の本質を突く歌の力はすこぶる快調。ここにきてなお未知なるあちら側をめざして前進する姿勢に凄みすら漂う通算152枚目。