サザンオールスターズが、46回目のデビュー記念日(2024年6月25日)に新曲“恋のブギウギナイト”を配信リリースした。現在放送中のフジテレビ系ドラマ「新宿野戦病院」の主題歌としてオンエア中の同楽曲だが、先日公開されたMVにはドラマで主演を務める小池栄子、仲野太賀が登場するなど映像面でも大きな注目を集めている。

昭和・平成・令和――3つの時代を駆け抜けてきたバンドが打ち出す新たなサザンサウンドとは? 文筆家として幅広いシーンで活躍するつやちゃんが、“恋のブギウギナイト”の楽曲と映像を考察する。 *Mikiki編集部

サザンオールスターズ 『恋のブギウギナイト』 タイシタ(2024)

 

新たなアプローチで浮き彫りになった、どうしても消せないサザンらしさ

〈サザンの新曲はEDMディスコ〉と聞いた時、その音楽性がどんなものになるのか全く想像がつかなかった。だが聴いてみると、紛れもないサザンサウンド。恐らく、EDMという言葉を狭義のジャンルと捉えてしまっていたから想像しづらかったのであって、まさかこんな踊り狂うような曲が出てくるとは。

ここで言うEDMとは恐らく広義のエレクトロニックダンスミュージックのことで、楽曲の構造としても、電子音とともにフレーズを反復した上でウワモノを乗せていくような手法が見て取れる。さらに、それらをディスコ調に仕立て上げるのは、むしろサザンの得意分野。これぞ桑田佳祐らしさ全開と言えるようなメロディ含め、間違いなく彼らのディスコグラフィの延長線上に位置づけられるものだ。

けれども自己模倣的かというとそういうわけではなく、今回はかなり意図的に新たなアプローチが加えられているように感じる。それが、ネオサイケデリックな世界観。元々サザンは妖艶でサイケな感覚を表現してきたグループだが、“恋のブギウギナイト”では、より一層サイバーパンク風味の味付けによってY3Kに接近するかのようなデフォルメされたサザンが堪能できる。MVでSF映画のようなサングラスをかけて登場する桑田佳祐のたたずまいは、まさしくそういった美学を意識してのことだろう。

※2000年代のファッションを指すY2K(Year Of 2000)に対して、3000年代のより近未来をイメージした世界観を意味するトレンドワード

MVを観て、2023年にオープンし大きな話題になった東急歌舞伎町タワーの〈新宿カブキhall〉を想起した人も多いのではないか。雑多なフォントとカラフルな色、ギラギラしたネオンを組み合わせることによってサイバーパンクな世界観を作り出した〈新宿カブキhall〉はSNS上でも賛否を呼び、(主に外国人観光客によって)新宿の新たな名所と化したのは記憶に新しい。

〈新宿カブキhall〉には近未来感とノスタルジー、バーチャルとリアル、さらに自国目線とインバウンド目線という相反する文脈が縦横無尽に入り混じっている。それら多元的な意味性が様々な色彩やフォルムでマキシマムに表現されることで、情報量がある一定の規定値を超えていたからか、オープン当初は様々な意見が飛び交った。

“恋のブギウギナイト”は、まさしくそういった世界観を思い出させる曲だろう。というか、ネオンが目を惹く艶めかしいMVでは、ほぼ近いトーンが描かれていると言ってよい。近未来感が投影される一方でサザン特有の昭和歌謡の懐かしさが感じられるし、セクシーな身体が強調されると同時に、ラップトップを操作し仮想空間にいるような桑田佳祐が姿を現す。さらに、海外から見た日本というフィルターを通した情景が描かれているようにも見える。ここでは、相反する様々な要素が、サザン特有のディスコ調サウンドによって表現されているのだ。

これを、海外や若年層といった新たなリスナーへ訴求した曲と捉えることも可能だろう。現行の音楽シーンにアジャストするための、サザンならではの進化の方法であると。しかし“恋のブギウギナイト”は、今回のようなアプローチを選択したからこそ、どうしても消せないサザンらしさが改めて浮き彫りになった曲のようにも思える。EDMディスコと呼ぶには生っぽすぎるくらいに、後半ぐいぐいと出てくるカッティングギターやグルーヴィなバンドサウンド。桑田佳祐の、醒めたようなクールな歌唱。〈女神か? 醜女(しこめ)か? 魔女なのか?/されど No woman no cry〉〈悲しみのモザイクを消して/またフラれ「ブサイク」決定〉とリリック面でも桑田節が健在だ。