Eratoへの指揮者デビューアルバムは、“新世界”にふさわしいアトランタ交響楽団とのドヴォルザーク!

 フランス歌曲やドイツ・リートのみならず、オペラや宗教曲などで、時代を代表するコントラルト歌手として活躍してきたナタリー・シュトゥッツマン。指揮者としても、すでに15年ほどのキャリアをもつ。自身のアンサンブル、オルフェオ55を設立するほか、ロンドン・フィル、ワシントン・ナショナル響、サンパウロ響など、世界各地の指揮台に立った。オペラ指揮者としてもメトロポリタン歌劇場やバイロイト音楽祭に出演。日本でも、新日フィルや水戸室内管に客演、サイトウ・キネン・フェスティバルではラヴェルの“子供と魔法”を指揮した。短いあいだに輝かしい実績を築いている指揮者の一人だ。

 その彼女が、指揮者として、シンフォニックなレパートリーを始めて録音した。アトランタ交響楽団との共演によるドヴォルザークの作品集。いわば指揮者としての本格的なデビュー盤となる。

NATHALIE STUTZMANN, ATLANTA SYMPHONY ORCHESTRA 『ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」、アメリカ組曲』 Erato(2024)

 組曲“アメリカ”は、ドヴォルザークがアメリカ滞在中に書いた作品の一つ。交響曲第9番や弦楽四重奏曲第12番“アメリカ”などと同様に、アメリカという地域性を折り込んだ音楽だ。この全5曲からなる作品をシュトゥッツマンは、優雅に、そして色鮮やかに歌わせる。演奏される機会が多くない作品の魅力を引き出した良演だ。

 そして、交響曲第9番“新世界より”。それぞれに適切かつフレッシュな表情をつけ、各楽器が歌いやすいようなバランスを作っていく。そして、呼吸感もじつにいい。

 そこから、じっくり丹念に紡ぎ出される歌謡性。自ずと緩急も生まれ、そのテンポの切り替えも鮮烈なものに。冒頭楽章、再現部の終わりで第2主題を弱音を交えながらゆったりと歌わせたあと、大きくリタルダンドし、全速力でコーダへ突っ込む流れはショッキングなほどに鮮やかだ。

 終楽章は、さらにテンポを縦横無尽に動かす。再現部のクライマックスなど、大きく音楽をふくらませて大見得を切る。彼女の歌心がオーケストラ全体に行き渡って生き生きと躍動。歌手としてだけでなく、指揮者でも凄かった!