チボ・マットが帰ってきた。NYで出会った羽鳥美保と本田ゆかによるチボ・マットがデビューしたのが95年。噂が噂を呼ぶなか、ミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクをプロデューサーに迎えた1st『VIVA! LA WOMAN』(96年)、ショーン・レノン、マーク・リーボウ、ジョン・メデスキらが参加した2nd『STEREOTYPE A』(99年)と、今なおオルタナティヴ・ポップ史にぴかぴか輝く作品を残した彼女たち。そんなチボ・マットが2011年の再始動を経ていよいよ15年ぶりにアルバムを完成させた。
「ゆかさんも私もすごくフレッシュな感じで作っていました。だけど、この世でゆかさんにしか作ることができない音のアプローチがあって。それはすごく懐かしく思いましたね」と語る羽鳥。
制作には2年もの歳月が費やされたそうだ。「チボ・マットって私たちにとっても摩訶不思議なもので。2人のケミストリーから本当に予想のつかないことが産まれるの。完成して、〈え、こうなっちゃうんだ! 〉みたいな。だからそういう意味で子供みたいな感じ」
本作のテーマは、ホテルでの経験や記憶のコラージュ、そして2人のイマジネーションが作り出した「ホテルの廊下を忍び歩くゴーストとの奇譚」。“Check In”から始まり“Check Out”で終わる物語には、レジー・ワッツ、ネルス・クライン、グレン・コッチェ、マウロ・レフォスコら豪華ゲストが訪れ、華やかな色を添える。「レジーが本当に面白い人で。曲を聞かせた瞬間に〈いいね!〉とか言ってすぐに始めて、一発オッケー。こんなに早く頭が回転する人もいるんだなって感動しましたね」
そんなレジー・ワッツも参加した“MFN”は、いつになくファットでストレンジなビートが飛び出し、エキゾチックでチャーミングなボーカルとカラフルに溶け合い新たなチボ・マットの魅力を引き出す。一方“Empty Pool”“Lobby”のように妖しくシュールに漂う楽曲が本作のムードを決定づける。エネルギッシュでいてエレガント。アヴァンギャルドでいてポップ。そんな絶妙なバランス感覚は成熟をみせるどころかますます冒険的だ。「ポップであることはすごく考えますね。チボ・マットのエネルギーが楽しくなかったらチボ・マットじゃないと思うので」
最後にアルバムの聴きどころをご本人に聞いてみた。「アルバムとして聴いてほしい。自分たちはフルコースを作った気分なので」。チボ・マットらしく食べ物に例えられた答えが出たところでそろそろチェック・アウト。いや、もう少しここにいよう。10階のダンスフロアで踊るゴースト・ガールに会うために今宵も『Hotel Valentine』にチェック・インするとしよう。