エイジアン・ダブ・ファウンデーションの30周年を祝うコラボ集が登場!
クラブ・ミュージックが先鋭的な表現の場として躍進し、バンド方面のシーンでもいわゆるミクスチャーの試みが盛んだった90年代。そこでメッセージを伝えるためのサウンド・ウェポンとして独自の音楽性を打ち立て、突出した存在感を放った集団がエイジアン・ダブ・ファウンデーション(ADF)である。当時はいわゆる〈ワールド・ミュージック〉的な観点から欧米以外のルーツ音楽が注目される機会も多くなっていた時代だが、UKエイジアンのコミュニティに根差してバングラやダブ、ジャングルなどを融合した刺激的なサウンド、そして自由や平等を訴える社会的なメッセージといった要素を楽曲として紡ぎ上げ、恐るべき情報量の多さを目まぐるしい展開で披露する唯一無二の音楽性は、いわゆる〈伝統音楽のモダン解釈〉とも〈ジャンルの融合〉とも似て非なるものだった。そのように時代の寵児として活躍してきた彼らもデビュー30周年。ここまでの止まらない歩みを改めて検証できるコラボ曲を集めた『94-Now: Collaborations』がこのたびコンパイルされた。
もともとADFの始まりは、東ロンドンにある在英エイジアンの精神的拠点 〈コミュニティ・ミュージック〉での音楽ワークショップから始まった。その背景を通じて彼らは教育的な志を形成し、同時に自分たちのコミュニティから生まれる音楽を共有する同志との結びつきを促したのだった。95年に最初のアルバム『Facts And Fictions』を出した頃はもっと大人数の集団だったが、世界的に名を広めた98年作『Rafi’s Revenge』でのラインナップは、ディーダー(ヴォーカル)、チャンドラソニック(ギター)、Dr. ダス(ベース)、サン・J(ドラムス)、パンディットG(ターンテーブル)の5名。00年代に入るとメンバー編成も流動的になるが、基本的には意識を共有した顔ぶれがコミュニティから加入してくるため、そこでADFの本質が大きくブレることはない。現在はチャンドラソニックとダスに加え、アクターヴェイター(ヴォーカル)、ゲットー・プリースト(ヴォーカル)、ネイザン“フルートボックス”リー(フルート/ビートボックス)、ブライアン・フェアバーン(ドラムス)が在籍している。
その一貫した意識は、今回リリースの『94-Now: Collaborations』に揃ったコラボ相手からも窺える。イギー・ポップ本人とストゥージズをカヴァーした“No Fun”(2008年)を筆頭に、シネイド・オコナーとエド・オブライエン(レディオヘッド)を招いた“1000 Mirrors”(2003年)、ADFがリミックスしたヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの“Taa Deem”(97年)とゼブダの“Toulouse”(96年)、プライマル・スクリームと組んだ“Free Satpal Ram (Bendran Lynch Mix)”(98年)、チャックD本人とのライヴ共演でパブリック・エナミーをカヴァーした“Black Steel In The Hour Of Chaos”(2007年)と、さらに日本からは親密な関係を築いてきたAudio Activeとの“Collective Mode”やLikkle MaiとDry and Heavy参加の“Raj Antique Store”もあり、単に豪華なだけのコラボじゃないことがわかるだろう。その意識は今作用の新録曲としてグライムMCのチャワーマンを迎えた“Broken Britain”からも明らかだ。なお、収録曲はすべて本作のためにリマスター/リワークが施されている。
現在の彼らは2025年にかけて大規模なツアーを敢行中だが、1月には11年ぶりに来日ツアーで東京と大阪を訪れることも決定。ADFならではの強烈な刺激をこの機会に体感していただきたい。
左から、イギー・ポップの2023年作『Every Loser』(Atlantic)、EOBの2020年作『Earth』(Universal)、Dry & Heavyの2015年作『IN TIME』(ポジティブプロダクション)、プライマル・スクリームのニュー・アルバム『Come Ahead』(BMG)
左から、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの97年作『Star Rise』(Real World)、ゼブダの2014年作『Comme Des Cherokees』(Barclay)、パブリック・エナミーの2020年作『What You Gonna Do When The Grid Goes Down?』(Def Jam)、Audio Activeの2003年作『Back To The Stoned Age』(BEAT)