まず冒頭の筆致一切を今回の新リマスタリング盤で確認してください。葬送行進曲の寂々たる深沈としたテンポ、頂点に達する猛烈な漸強。テンシュテットのマーラー・ライヴでも最重要の1つ、88年12月13日ロンドン公演の世界初SACD化。第2楽章、嵐の激動のさなかに射し込む輝かしいコラールの後の寂寥。そのコラールが終楽章コーダで突き抜けるように回帰する。音楽のエンパワメントを感じる瞬間。85年にがん告知を受け、87年にロンドン・フィル音楽監督を退任、病との闘いの中でこぎつけていく演奏会の意味を、この録音からも感受できる。この日前半に演奏されたのは、シェーンベルク“ワルシャワの生き残り”だった。