1970年代から客演指揮に喝采を送り、テンシュテットの名を世界規模にしたのが米国の聴衆だった。その米国での最後の演奏会となったのが1992年4月14日ニューヨークでのライヴ。しかも中心的レパートリーだったブルックナーの交響曲第8番。一切を踏まえた上でニューヨーク・フィルが入念かつ力のこもった重厚演奏で献身する。長大な第3楽章アダージョは荘重な中に幾度も名状しがたい情感が発露し、時間が停止するような感覚すら想起させる。闘病しながら辛うじて遺されたこの年のライヴ音源はどれも一期一会的な趣きを濃厚に感じさせるが、当音源はまさしく格別。ディスク化されたことをまずは歓迎し、傾聴したい。