華麗なるピアニスト、ブルース・リウの新譜は詩的な世界がひろがる“四季”
2021年に第18回ショパン国際ピアノ・コンクールで優勝し、全世界で注目の的となったブルース・リウ。コンクール後は世界中で演奏活動を展開し、聴衆を魅了し続けている。そんな彼の新譜はチャイコフスキーのピアノ曲集“四季”(CDとデジタル配信のボーナストラックには“ロマンスへ短調”も収録)。華やかなピアニズムが持ち味の彼からすると、少々意外な選曲にも思える。
「私にとって日記のような作品なのです。とても親密な世界が感じられ、弾いていると、その月がどのような時間だったかを振り返るような気分になれます。コンサートツアーで移動が多い日々を送るなかで、私自身を顧みるような作品を弾きたいという想いに駆られて選びました。また、チャイコフスキーといえば交響曲やバレエなど規模が大きく派手な作品がよく知られていますが、“四季”のように親密な世界にロシアの民族音楽が溶け込んでいるものの魅力も改めてお伝えしたいと考えたのです」
またリウにとってチャイコフスキーの音楽は幼少期から親しんできたものだという。
「6歳くらいのころからよく彼の作品は聴いており、それこそ“くるみ割り人形”はクリスマスの時期にはよく観ていました。ピアノ協奏曲もコンサートで何度も聴き、また弾いてきましたね。伝統的なクラシックの形式と重厚さに標題音楽の要素をあわせもち、さらにシェイクスピアの詩のようなものも感じられる、たくさんの魅力のある作曲家です」
ブルースの奏でる“四季”は多彩な音色で物語が描かれていくようだ。彼のなかではどんな世界がひろがっているのだろう。
「演奏中は素晴らしい風景を思い浮かべている、と思われるかもしれませんが……それは幻想です(笑)。もちろん練習のときなどは色々とイメージを膨らませますが、ステージやレコーディングでは一つ一つの音やハーモニーに対して意識が向いています。また、“四季”や“ロマンス”はとても歌が重要な楽曲なので、減衰楽器であるピアノで“歌う”ための音色づくりについても考えています」
来年3月には来日リサイタルも予定。“四季”をはじめスクリャービンやラフマニノフ、プロコフィエフの作品が並ぶ。
「詩的なもの、情熱、そして強烈なリズムなど、さまざまなコントラストができるように組んでいきました。同じロシアの作曲家でも全く違う世界観をお楽しみいただければと思います」