説明不要のパンク・バンド、SAのTAISEIが初めて本名で臨んだソロ・アルバムをリリース! 40年のキャリアと思いを詰め込んだ渾身のルーツ・ミュージックからあふれ出すものとは?

自分の音楽の幅を知りたかった

 アーティストネームと写真を見て〈誰だ?〉と思った人もいるかもしれない。TAISEIこと馬渕太成、昭和42年生まれ、パンク・バンドSAのヴォーカリスト。高校生だった84年にSAを結成し、昨年で音楽生活40周年を迎えた男が、満を持して放つ本名による初ソロアルバム。それが『新光 -SHINKOU-』だ。

 「きっかけはいくつかあるんだけど、一番はやっぱりコロナですよ。外出が制限されてる中で、どん底まで落ちるだけ落ちたけど、結局ミュージシャンは音楽を作るしかない。自分の表現力のキャパシティを試すために、ガキの頃に聴いた歌謡曲とかロックとか、実験的にカヴァー曲を作ってたんですよね。もっと言うと、90年代にBAD MESSIAHというバンドをやっていて、不本意な形で解散することになったけど、その後に本当はソロをやりたかったんですよ。BAD MESSIAHで培ったソフト・ロックやサイケデリック、ビートルズを筆頭としたサウンドを自分でどこまで作れるか?というデモを作っていて、その計画は頓挫したんだけど、今回のコロナ禍を機に、もう一度自分の音楽の幅を知ってみたいなと思って、デモを作り出したのがきっかけです」。

馬渕太成 『新光 -SHINKOU-』 SELECTIVE/VMG(2025)

 共同プロデュースとギターは上原子友康(怒髪天)。バンドメンバーは寺岡信芳(亜無亜危異)、グレートマエカワ(フラワーカンパニーズ)、奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)、そしてSAから林久悦と根本健一。コーラスにうつみようこ、すずきゆきこ(BUGY CRAXONE)。百戦錬磨のメンバーに支えられ、70年代歌謡曲、80年代ビート・ロック、90年代ダンス・ロックなど、年輪と音楽性に彩られた全6曲を伸び伸びと歌う。SAの尖ったエネルギッシュなヴォーカルとはまた違う、豊かな包容力を感じる歌がいい。

 「友康くんとは年齢も近いし、仲もいいし、いろんなサウンドを作れる人だから、ぴったりだと思ってお願いしたんだけど、僕の長い人生で、プロデューサーを立てるのが初めてなんですよ。全然違うものに変えられたらどうしようかと思ったけど、友康くんが〈このままでいいよ〉って言うわけ。だから全曲ほぼ一緒で、ギター・ソロも俺のデモをコピーして弾いてくれた。奥野くんからも〈これ名盤じゃね?〉ってLINEが来て、ミュージシャンの人たちに認められて自信がつきましたね」。