SAで活躍する現役バリバリのレジェンドが、難病と闘う実弟と久しぶりにタッグを結成…… ダブルネームで〈特別な瞬間〉を刻んだアルバムは前向きな不屈のスピリットで貫かれている!

俺は諦めてない

 パンク・バンドのSAでギタリストとして活動しながら今年で還暦を迎えるNAOKIが、かつてDOG FIGHTでバンド活動を共にした実弟・TAISHOとダブルネームでアルバムをリリースした。ご存じの通りTAISHOは指定難病・大脳皮質基底核変性症によって身体と会話に大きな困難を抱え、一方のNAOKIも昨年大病を患い、左目が不自由なうえに背中の骨折などもあって満身創痍。しかし、ジャケに写る笑顔を見てほしい。このアルバム『SPECIAL MOMENTS』に収められているのは、不屈のパンク・スピリットを貫く兄弟の生き様を刻んだ〈特別な瞬間〉たちだ。そのきっかけについてNAOKIはこう語る。

 「去年の9月に弟の長期入院が決まって、たぶんヒマだろうなと思ったから〈曲を書くから詞を書いてみない?〉と言ったんですよ。で、1曲投げたら1週間ぐらいで詞が返ってくるかなと思ったら、2時間で返ってきた。どれだけ投げても2時間で返ってくるから、〈手術して頭の中にAI頭脳が入ったんちゃうか〉とか思ったんだけど(笑)。あっという間に1か月半で曲数が溜まって、ちゃんとアルバムにしたほうがいいなと思ったのと、ちょうど自分が60歳になることも考えて、これはお互いの〈奇跡の瞬間〉だと思ったんですね。弟は首から下はもうほとんど動かせないけど、〈俺は諦めてない〉って言ってるから、本当にすごいと思う。ファイターですよ」。

NAOKI and TAISHO 『SPECIAL MOMENTS』 H.G.L/SELECTIVE(2025)

 アルバムの1曲目を飾り、MVも作られたリード曲は“THE GOOD OLD DAYS”。パンク・ロックにハートを撃ち抜かれた少年期を振り返り、〈いつまでもSTAY FREE〉と高らかに宣言する歌詞が、おぼつかない指先で一語一語スマホに打ち込まれたものだと想像するだけでグッとくる。それを歌うNAOKIの、人生のブルースが滲み出たしゃがれた声の魅力にやられる。

「これは実話だって俺は全部知ってるから、あいつに成り代わって歌ってやろうと思ったし、あいつの詞を大切にしたかった。MVの撮影も、何もできないからありのままを映されてるだけやけど、本当に楽しんでましたよ。あいつはまだ仕事がしたいんですよ。いまの自分のありのままの姿を見せて、同じ立場で苦しんでる人に、〈それでも笑おうぜ〉というメッセージを送ってるような気がするんだよね。〈気持ちだけでも立ち向かえよ〉ってね」。