西脇辰弥との出会いから生まれた刺激的な名曲たち
ここで谷村の初期キャリアにおけるキーパーソンとして、アレンジャー/キーボーディストの西脇辰弥について触れておきたい。ギタリストの岩田雅之やChocolate Lipsのボーカルとしても知られる藤原美穂がメンバーに名を連ねたユニット、PAZZのキーボーディストとして1987年にシティポップの傑作盤『バナナフィッシュ』でデビューした彼が、谷村組に加わったのは1988年のセカンドアルバム『Face』が最初。そこから1992年発表の7作目『Docile』まで手厚くサポートしているが、幅広い音楽性を駆使した閃きに溢れるサウンドアレンジは谷村のクリエイティビティも大いに刺激することとなり、まさに蜜月のタッグと呼ぶに相応しいナイスなコラボを繰り広げていく。
西脇が作曲まで担当した曲も多数あり、これが名曲の誉れが高い作品揃いだったりする。“朝は朝 嘘は嘘”や“かもめのように”など『Face』収録の初期コラボ曲をはじめ、フィフス・ディメンションのヒット曲のエッセンスやバート・バカラックの作風などを取り入れたソフトロック曲“ラッシュ・アワーのアダムとイヴ”(『PRISM』収録)、それに同世代の同性に向けた応援ソングとして人気を博し、一般的に彼女の代表作とされる“がんばれブロークン・ハート”(1989年作『Hear』収録)も西脇の手によるものだ。
どの曲もこれぞ〈ガールポップ〉的と言いたくなるヒットソングだが、硬質なデジタルシンセの音色が奏でるファンキーなビートがカッコいい!と、ビビッドに反応するヤングたちがこの先たくさん出てきそうな気がする。主役の趣味性をうまく掬い上げつつ、ちょっとエキセントリックと思えるようなリズムパターンをぶつけてみるなどチャレンジングな音作りが実践されたこれらの西脇参加作。両者の幸せな共犯関係によってもたらされた傑作ガールズAORの数々はいまなお刺激的であり続ける。
注目すべきナンバーはほかにも。まずは、小西康陽と有賀啓雄が共作した“ポストカード”(『Hear』収録)。魅惑のクリスタルボイスとジェントルなメロディーが融合を果たしたこのミディアムバラードは、彼女のディスコグラフィーのなかでもエバーグリーン度の高い名曲だ。
あるいは、アルバム全体として〈渋谷系〉との親和性についてふと思いを馳せてしまう1995年作『圧倒的に片想い』に収録されているラテン調のミディアムチューン“MOON”。クリス・レアの“On The Beach”に通じるメロウでアダルトなムードに包まれて、翳りを帯びた谷村のボーカルが何とも言えない艶めきを放っている。
それから、スウィング・アウト・シスターのプロデューサーとして知られるポール・オダフィをサウンドプロデューサーに迎えた楽曲群(1997年作『daybreak』に収録)も取り上げておくべきだろう。シングルになった“FACE UP”など、レイト60s的なソウルフレイバーをまぶしたグルーヴィーなトラックとの馴染みっぷりがバッチリ過ぎて刺激的な要素は少なめだけれど、完成度の高さはすこぶるバツグン。90年代ポップの逸品と呼びたい1曲だ。
