シティポップカバーの真打! 思わずそんな形容詞をつけたくなる作品が登場した。80年代から活躍するシンガーソングライターの今井優子が満を持して発表したカバーアルバム『Reminiscence』は、数々の名曲を極上のサウンドとボーカルで再構築した意欲作である。しかも、単なる企画盤ではなく、彼女のキャリアにおいて非常に重要な位置を占める作品となったと言える。今回なぜオリジナルではなくカバーアルバムを発表することになったのか、その理由を多くのエピソードとともにじっくりと語ってもらった。
信頼する仲間とルーツである楽曲へ挑戦
――ここ数年はとても精力的に活動されている印象がありますね。
「10年くらい表舞台に立っていない時期もありましたけれど、『SWEETEST VOICE ~Yuko Imai Best Album~』というベストアルバムをリリースした2016年あたりからいろいろとお声がけいただけるようになって、リリースやライブも積極的に行ってきました」
――それで今回はカバーアルバム『Reminiscence』が発表されたわけですが。単刀直入にお聞きしますが、なぜこれだけシティポップのカバーアルバムが世にたくさんあるのに、敢えてトライした理由はなんだったのでしょうか。
「ずっと前からやりたかったんですよ。リリースする度に〈カバーアルバムを出したい〉って言い続けてきたんですけれど、アルバム制作となるとやっぱりオリジナルをやろうということになって、いつも見送っていました。だから前作の『Spell of Love』(2022年)の次は絶対にカバーをやろうって決めていたんです」
――ということは念願の作品なんですね。カバーアルバムの構想はいつからあったんですか。
「それこそ『SWEETEST VOICE』の頃からだから、もう8、9年越しです(笑)」
――確かにこれまでも松原みきさんの“真夜中のドア~Stay With Me”や吉田美奈子さんの“愛は彼方”、中原めいこさんの“FANTASY”などをいち早くカバーしていた今井さんですが、アルバムという形では発表していなかったですよね。選曲の基準は何だったのでしょうか。
「いろんな切り口で選曲はできたのですが、今回は私が幼少期から20代くらいまでに聴いていた楽曲に絞りました」
――まさにルーツになっている楽曲ということですね。
「そうです。だから『Reminiscence』(=回想という意味)というタイトルにしたんです」
――ただ、そうなると相当選曲が大変だったのではと思いますが。
「確かに、他にもいっぱい歌いたい曲はあったんですよ。でも似たような曲ばかりにならないように絞っていきました。今回は安部潤さんと川成順(川内啓史、友成好宏、梶原順のユニット)にお願いしようと思っていたので、彼らと一緒にやることを念頭において選んだというのもありますね」
――それは単にボーカリストとしてだけでなく、サウンド面も含めて今井さんらしさを打ち出すということですよね。
「そうです。まず、安部潤さんは絶対だったんですよ。ずっと私の音楽性や好きなコード感なんかを熟知してくださっているので話が早いし、何よりも素晴らしいアレンジをしてくれますから。それと川成順の方たちは、何度もライブを一緒にやってけっこう面白かったので、アコースティックな曲は彼らに頼みました」
――じゃあ、決め打ちでアレンジをお願いしたということですか。
「しっとり系は川成順、フュージョンやラテンっぽいものは安部潤さん、という風にお願いしました。それだけいろんなタイプの楽曲が混在しているのが特徴です」
――ひとことでシティポップと括り切れないバラエティに富んだ内容だと感じました。
「それはすごく意識しましたね。あと、私はいつもがっつりと歌うことが多いんですが、今回はちょっと力を抜いてみたり、やわらかなボーカルを意識してみたりと歌い方も工夫しています。『Reminiscence』だから、若い頃の私だったらこう歌うかな、なんていうアプローチをしてみたりして。そこは初のトライです」