ポップソングは総合芸術、ゆえに歌は曲の〈核〉を掴まなければいけない――確信を込めたニュー・アルバム『DREAMIN’』は、時代を超えたスタンダードの風格を湛えていて……

曲の〈核〉をブレさせないために

 絵に描いたような七色のサウンドスケープが広がる先行シングル“CATCH THE RAINBOW”を聴いたときにも発見できた上昇気流発生中のサイン。またしても夏ど真ん中に届けられたジャンク フジヤマの新作『DREAMIN’』には、現在の彼の絶好調さを伝える、どこまでも上天気なグルーヴィー・チューンが揃っている。だが、耳を凝らせば、熱量の高さに加えて緻密な計算力が働いている完成度の高い楽曲が多いことに気付く。

 「シティ・ポップ然としたものからロック寄りのもの、それにハチロク系バラードなど、必要なピースを探りながらアルバムの全体像を組み立てました。毎度のことですけど、曲を完成に導くために、〈クレジットに名前の載らない作曲家〉みたいな作業をかなり行っているんです。自分の歌の美味しい部分がうまく出るように言葉の響かせ方や抑揚などを現場でひとつひとつ吟味しながら調節していく。“CATCH THE RAINBOW”はそんな方法がうまく機能した一曲ですね」。

 若き実力派サウンド・クリエイター、神谷樹を相棒に選び、多彩な作家陣が要所要所を固める制作スタイルは今回とて変わりなく。ただし、抑揚の付け方やメロディーの選び方などディテールでの的確な判断力というか、随所で発揮される勘の鋭さが従来よりも浮き彫りになっている感があり。

 「自分の曲でも他人の曲でも、そこにどんな〈核〉があるのかを瞬時に判断し、掴みとることが大事。形にはこだわらないけど、いかなる場合も核だけはブレさせてはいけない。後輩、先輩関係なく誰が書いた曲でもまるですべて僕が作っているかのように聴かせたい。そのためにはBPMにあまりとらわれず、さまざまな可能性を試してみる。THE CHARM PARKくんの楽曲“Lovers In Tokyo”を手伝ったとき、リスナーから〈オリジナルからテンポを変えたんですか?〉って言われた。どうやら遅く聴こえるみたい。でも僕はテンポを変えずに、BPMのなかで遊んでみただけ。タメを作ったり、前倒ししてみたり、余韻も含めて拍の中でギリギリまで遊び切ったら、そういう錯覚にさせたみたい。それを繰り返した結果、息継ぎする箇所がなくなって、どうしよう?って困った曲もいっぱいありますよ(笑)」。

ジャンクフジヤマ 『DREAMIN’』 ポニーキャニオン(2023)

 本作において、思いっきり遊んでみたことで思いがけず良い成果が得られた代表的な一曲が“あれはたしかSEPTEMBER”だという。ブレスのポイントをどこに置くかという試行錯誤が導き出したのは、瑞々しい弾力と上質な滑らかさ。往年の岡村靖幸のサマー・ソングのような青春感が駆け抜けるナイスなポップ・チューンとなっている。この曲や半田彬倫が作曲したゴスペル・テイストの“SOUTHERN CROSS”などアルバム中盤の柔らかくて淡い色合いの楽曲が作品全体のイメージの豊かな広がりに寄与している点は指摘しておこう。そんななか異色な存在感を放っているのが、山川恵津子が作曲した“UTOPIA”だ。日本のAOR史を語るうえで欠かせない名ユニット、東北新幹線のメンバーであり、比類なきポップセンスとヴォーカル・ワークを駆使して数々の名曲をクリエイトしてきた彼女とジャンク フジヤマのコラボには無条件にワクワクさせられた。今回、彼女にオファーするにあたり、〈声の低音を引き立たせる曲が欲しい〉と伝えたそう。

 「その結果、かなり難しい曲が届きましたけど(笑)。以前ライヴに来てくれたとき、〈一緒に何かやりたいね〉って言ってくれたことを今回実現させました。偉大な大先輩ですけど、こちらもしっかり主張して、16ビートで切っているところをあえて8ビートにしてみるとか頑固に自分流を押し通したら、〈あなたがそう言うなら……〉と受け入れてくれた。彼女もまたこれまで一緒にやってきた先輩方と同様、自分と近い音楽言語をお持ちの方です」。