
ポップソングは総合芸術、ゆえに歌は曲の〈核〉を掴まなければいけない――確信を込めたニュー・アルバム『DREAMIN’』は、時代を超えたスタンダードの風格を湛えていて……
曲の〈核〉をブレさせないために
絵に描いたような七色のサウンドスケープが広がる先行シングル“CATCH THE RAINBOW”を聴いたときにも発見できた上昇気流発生中のサイン。またしても夏ど真ん中に届けられたジャンク フジヤマの新作『DREAMIN’』には、現在の彼の絶好調さを伝える、どこまでも上天気なグルーヴィー・チューンが揃っている。だが、耳を凝らせば、熱量の高さに加えて緻密な計算力が働いている完成度の高い楽曲が多いことに気付く。
「シティ・ポップ然としたものからロック寄りのもの、それにハチロク系バラードなど、必要なピースを探りながらアルバムの全体像を組み立てました。毎度のことですけど、曲を完成に導くために、〈クレジットに名前の載らない作曲家〉みたいな作業をかなり行っているんです。自分の歌の美味しい部分がうまく出るように言葉の響かせ方や抑揚などを現場でひとつひとつ吟味しながら調節していく。“CATCH THE RAINBOW”はそんな方法がうまく機能した一曲ですね」。
若き実力派サウンド・クリエイター、神谷樹を相棒に選び、多彩な作家陣が要所要所を固める制作スタイルは今回とて変わりなく。ただし、抑揚の付け方やメロディーの選び方などディテールでの的確な判断力というか、随所で発揮される勘の鋭さが従来よりも浮き彫りになっている感があり。
「自分の曲でも他人の曲でも、そこにどんな〈核〉があるのかを瞬時に判断し、掴みとることが大事。形にはこだわらないけど、いかなる場合も核だけはブレさせてはいけない。後輩、先輩関係なく誰が書いた曲でもまるですべて僕が作っているかのように聴かせたい。そのためにはBPMにあまりとらわれず、さまざまな可能性を試してみる。THE CHARM PARKくんの楽曲“Lovers In Tokyo”を手伝ったとき、リスナーから〈オリジナルからテンポを変えたんですか?〉って言われた。どうやら遅く聴こえるみたい。でも僕はテンポを変えずに、BPMのなかで遊んでみただけ。タメを作ったり、前倒ししてみたり、余韻も含めて拍の中でギリギリまで遊び切ったら、そういう錯覚にさせたみたい。それを繰り返した結果、息継ぎする箇所がなくなって、どうしよう?って困った曲もいっぱいありますよ(笑)」。
本作において、思いっきり遊んでみたことで思いがけず良い成果が得られた代表的な一曲が“あれはたしかSEPTEMBER”だという。ブレスのポイントをどこに置くかという試行錯誤が導き出したのは、瑞々しい弾力と上質な滑らかさ。往年の岡村靖幸のサマー・ソングのような青春感が駆け抜けるナイスなポップ・チューンとなっている。この曲や半田彬倫が作曲したゴスペル・テイストの“SOUTHERN CROSS”などアルバム中盤の柔らかくて淡い色合いの楽曲が作品全体のイメージの豊かな広がりに寄与している点は指摘しておこう。そんななか異色な存在感を放っているのが、山川恵津子が作曲した“UTOPIA”だ。日本のAOR史を語るうえで欠かせない名ユニット、東北新幹線のメンバーであり、比類なきポップセンスとヴォーカル・ワークを駆使して数々の名曲をクリエイトしてきた彼女とジャンク フジヤマのコラボには無条件にワクワクさせられた。今回、彼女にオファーするにあたり、〈声の低音を引き立たせる曲が欲しい〉と伝えたそう。
「その結果、かなり難しい曲が届きましたけど(笑)。以前ライヴに来てくれたとき、〈一緒に何かやりたいね〉って言ってくれたことを今回実現させました。偉大な大先輩ですけど、こちらもしっかり主張して、16ビートで切っているところをあえて8ビートにしてみるとか頑固に自分流を押し通したら、〈あなたがそう言うなら……〉と受け入れてくれた。彼女もまたこれまで一緒にやってきた先輩方と同様、自分と近い音楽言語をお持ちの方です」。
ポップソングは総合芸術
夢想的なムードと艶やかな浮遊感に包まれた“UTOPIA”は、従来のリスナーにもハッとするような驚きを与えるだろう。〈先輩後輩を問わず、音楽制作に関わった人たちの総称としてジャンク フジヤマがある〉と彼が常々口にする言葉には、各パートに配置されたエキスパートたちがスキルを最大限に発揮し、みずからが思い描く本物の音楽が生成されていく瞬間を幾度となく目撃してきた経験の裏付けがある。ジャンク フジヤマというマシーンをうまく操縦させるためにはオープンかつニュートラルな思考が重要なキーになるわけだが、〈僕の歌に寄り添ってほしい〉という要望に参加者全員が的確に対応しており、なんとも感動的だ。それらの賜物として、どの曲もスタンダードな趣を醸し出す結果になっている。ジャンク フジヤマが考えるスタンダードなポップソングとは?
「まず曲の核をしっかり掴んだ歌があり、詞、メロディー、コーラス、オブリなどの入れ方、リズムといった要素が、有機的に絡み合い成立している総合芸術。さらにミックスをやる人、マスタリングをやる人、楽器を扱う人、各々の主張が音にありありと現われているもの。そういう音楽を作るのが理想です」。
それにしても、布施明“君は薔薇より美しい”というカヴァーのチョイスといい(彼ほどこの曲を歌い継いでいくべき人材がいまは思いつかない)、あらゆるアイデアがど真ん中をズバリ的中しているこの感じ。そういう力が十全に機能している背景には、〈シティ・ポップ〉ブームの追い風があるのは確か。「マニアックなものだと決めつけられ、敬遠されたりすることなく、時代の主役を張っている音楽のなかに自分もいられるのはありがたいこと」と謙虚な物言いをするが、この状況のおかげで〈核〉とじっくり向かい合う態勢を整えられているのは事実だろう。
ところで今年、不惑の年に到達したジャンク フジヤマ。15歳のときに35歳じゃないの?と言われたぐらい若くして老成円熟していたキャラに実年齢が追い付いたと言えるのかも。
「デビュー当初と比べると、物事をだいぶ俯瞰で見れるようになったし、歌の面でも感情に引っ張られすぎず、あまり熱くなりすぎないようにコントロールできるようになった。体力、声の調子、共にとてもいいバランスにあるかな。でも、いまでも憧れの先人たちからいろいろ吸収していますよ。例えばニール・セダカの“Laughter In The Rain”からファルセットのミックス感を学んだり。日本人でああいう濃くて太い響きを出せる人ってなかなかいない。スコン!と抜けるようなファルセットを学びたかったら、マーヴィン・ゲイの音楽を聴くとか」。
と、いろいろなことを書いてきたけど、『DREAMIN’』のハンパない充実感を支えているもの、それは、〈この音楽を未来に向かって末永く残すんだ〉という執念に似た彼の思いなんじゃないか。自身のスタイルを決して曲げることなく頑固に一途に楽曲を磨き上げる姿はなんだか、古い暖簾を守るために心を砕く老舗の番頭さんのようにも映る。そこに宿る気合と根性。シティ・ポップというもののイメージとはかけ離れた精神性かもしれないけど、なんだかんだ言ってもこいつがどの曲にも特別な輝きを与えているのは疑いない。絶対にそうだ。
ジャンク フジヤマの近作。
左から、2022年作『SHINE』(Pヴァイン)、2020年作『Happiness』(Mil Music/Pヴァイン)
『DREAMIN’』に参加したミュージシャンの関連作。
左から、ジャンク フジヤマと神谷樹が作曲した寺嶋由芙の2022年のシングル“恋の後味”(インペリアル)、ベーシストの坂本竜太が参加したChinatsuの2021年のシングル“Platinum”(ソニー)、山川恵津子が楽曲提供した伊藤蘭のニュー・アルバム『LEVEL 9.9』(ソニー)
THE CHARM PARKの2023年の7インチ・シングル『Lovers In Tokyo feat.ジャンク フジヤマ/Lovers In Tokyo』(StyleBook/ULTRA-VYBE)
LIVE INFORMATION
ジャンク フジヤマ ニューアルバム『DREAMIN’』リリースライブ
2023年8月14日(月)大阪・ビルボードライブ大阪
2023年8月25日(金)東京・COTTON CLUB
酷暑から遠く離れて……この夏を鮮やかに焼き付けるためのリゾート・モードな必携盤
東京の下町、足立区出身で夏生まれのシンガー・ソングライターが描くクリスタルな夢模様。荒井由実や松田聖子の名盤に身を潜めていそうな夏仕様のポップソングたちは、経年劣化しないサウンドが持ち味だ。八神純子を思わせる伸びやかな歌声も魅力。 *桑原
デビュー35周年を美しく飾った充実作。ドライヴィンな疾走感を湛えた表題曲や神谷樹が提供したアーバン・メロウ“Drive In Blue”などシティ・ポップ・ラヴァーの心をときめかせる〈恋の呪文〉があちこちに。〈真夜中のドア〉カヴァーも瀟洒で艶やか。 *桑原
先ごろ、Masahiroのソロ・ユニットとなったアマネトリル。この最新作では、T-Groove、SWING-Oと爽快な80s西海岸サウンドを奏でる“渚のLADYになりきって”など気分を南向きに変えてくれる快曲揃い。腕利き演奏家らの紡ぐ生音グルーヴが心地良い。 *桑原
金澤寿和が監修したシティ・ポップのカヴァー・コンピは、ジャンク作品に欠かせない神谷樹と、初期の角松敏生に関わった名手、林有三がアレンジを担当。流麗さを極めたサウンドに、佐々木詩織やナツ・サマーらのシルクのような歌声が重なる逸品です。 *田中
ブルー・ペパーズの福田直木が作・編曲を手がけた“Too Good Be True”をはじめ、しなやかなグルーヴと甘酸っぱいメロディーが横溢する良曲揃いの最新作。オメガトライブでのデビューから40年。昨日よりもずっと瑞々しいのだから流石というほかない。 *桑原
田村三果とBRIAN SHINSEKAIによるプロジェクトのファースト・アルバム。往年のニュー・ミュージックを通奏低音にしつつ、現代的かつスマートにまとめており、ドリーム・ポップ勢にも通じる佇まいで、甘酸っぱくも清涼な風を運んでくれる。 *田中
福岡発4人組のメジャー・デビューEP。バンド名に加えて、潮風の香る音作りが、海の見える街の〈レペゼン地元〉な気概を感じさせる。ブラジルやフュージョンにも接近する演奏と、骨太な歌声を聴いていると、夏を謳歌する快男児みたいな気分になっちゃったり。 *田中
“マンハッタンdream”で知られる山本寛太郎がGRASS VALLEYの本田恭之らと組んだユニットの唯一作。万華鏡のようなシンセが降り注ぐ夢心地のリゾート・サウンドは懐かしくて新しい。90年代にシティ・ポップの金脈があることを知らしめた奇跡の一枚。 *桑原
甘い色香を湛えた歌声を持つシンガー・ソングライターのムーン時代(82~87年)から選りすぐった編集盤。うだるような暑さに効くのは、やはり鳴りがスウィートな前期の楽曲か。ヒット曲“一本の音楽”はジャンクのライヴ・レパートリーでもある。 *田中









