結成20周年を迎えた5人がまず取り組んだのは出発点を見つめ直すことだった。入手困難な初期作品をリテイクしたアルバムは20年後の何を証明している?

長く続けるバンドにしたかった

 2004年の夏に結成され、同年末にバンド名を伏せての初ライヴを実施。そして精力的に各地のライヴハウスを廻りながら、2005年4月にはいきなり『greedy dead souls』と題されたオリジナル・アルバムを、さらに同年11月には5曲入りシングル『underneath the skin』を発表。いまや押しも押されもしないポジションを確立しているlynch.の歴史は、いまから20年前、そんなふうにして始まっている。そして今回登場する『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』は、とうの昔に廃盤となり入手不可能となっていた前述の初期2作の収録曲たちを再録音したもの。しかもそこには当時のシングルのカップリング曲や、2008年に原型が生まれていたという“GOD ONLY KNOWS”なる新曲も含まれている。いわば今作にはこのバンドの初期衝動が、いま現在のlynch.ならではのクオリティーと説得力を併せ持ちながら改めて体現されているのだ。だから聴いていても不思議なほど違和感はなく、懐かしさよりもむしろ新鮮さが際立っている。

lynch. 『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』 キング(2025)

 創世期のlynch.は葉月(ヴォーカル)、玲央(ギター)、晁直(ドラムス)の3人にサポート・ベーシストを加えて活動していたが、のちに悠介(ギター)が加わり、2011年のメジャー・デビュー時からは明徳(ベース)も合流。その事実からもわかるように今作では、3人体制時代の楽曲がいま現在の5人によってリニューアルされている。そこで今回はオリジナル・メンバーの3人に、まずこのバンドがどのような考えのもとに生まれ、どんな音楽を志していたのかを改めて訊いてみた。

 「それまでにやってきたバンドがいずれも短命に終わっていたこともあって、僕としては〈とにかく長く続けられるバンドにしたい〉という気持が強かった。そのためには長く聴き続けられる音楽、流行りを追いかけているだけではない音楽を作る必要があったし、だからこそ音楽的嗜好が多様なメンバーたちと組みたかった。あくまでメイン・ソングライターは葉月ですが、そこに各自が持っているものをきちんと反映できれば、音楽的にもほかとは違うものになるはずだと思っていたし、バンド自体も長く続けられるだろうと考えてきたんです」(玲央)。

 実際このバンドは、すでに豊富な活動歴を持っていた玲央が、それまで地下シーンでもがいていた葉月に声をかけたところから始まっている。その時点で活動上のヴィジョンを持っていたのは玲央であり、葉月はむしろそれに追随する状態にあった。

 「晁直くんが入るまでにもけっこう時間がかかっていたし、しかもなかなかベーシストが見つからなくて、正直、〈これは本当にバンドになりえるのか?〉という雰囲気でもありました。ただ、以前のバンドで僕が作っていた曲を玲央さんが評価してくれていたことは嬉しかったし、〈これでようやく自分にも日の目を浴びるチャンスが巡ってくるか?〉という期待感もありましたね(笑)」(葉月)。

 この2人に、それまでハードコアの領域で活動していた晁直が合流することになったわけだが、そのタイミングが少しでも違っていたらlynch.の運命は違っていたかもしれない。なにしろ当時の彼は、バンド活動に対する動機を失いつつあったのだ。

 「前のバンドが終わって、自分の気力もフェードアウト気味になっていて。だから正直、バンドをやりたいという意欲はあんまりなかったし、それゆえに参加を決めるまでに時間もかかってしまって。最終的に加わることになったのは、自分がまだ何も結果を出せていないことに気付いて、最後にもう少しだけがんばってみようか、という気持ちがわずかに残っていたからだと思う」(晁直)。