クラシック、YMO、NUMBER GIRL、スピッツ、USオルタナ、ビートルズ、ジャズ、レディオヘッド、アウトキャスト、カニエ・ウェスト、サンボマスター、ゆず、オアシス、ブラー、ユニコーン……これらはメンバー5人にルーツを尋ねたところ、返ってきた答えだ。さまざまな音楽を取り込みつつ、異形のサウンドを作り出してきたアーティストが多いが、トリッキーな演奏と定型からはみ出ていく楽曲で話題を集めている彼らKhakiも、その系譜にあるバンドといえるだろう。全員が作曲できることも、越境的な音楽性に貢献している。

 「ビートルズを好きになると、この曲は誰が歌ってるんだろう、実際は誰が作曲したんだろうとか気になりますよね。そういう謎がおもしろいと思う」(平川直人)。

 2018年に早稲田大学のサークル内で結成され、2021年のファースト・アルバム『Janome』や2023年のシングル“Undercurrent”などコンスタントに作品を発表。2023年には〈サマーソニック〉に出演し、2024年に東京LIQUIDROOMでのワンマンをソールドアウトさせるなど、活動規模を拡大してきた。

 「ターニング・ポイントは『Janome』だと思います。全国流通が決まったタイミングで出した収録曲“Kajiura”のMVに反響があって」(橋本拓己)。

 『Janome』は、現在のベーシスト・下河辺太一が加入する以前の4人編成で制作。現在のKhakiよりもオーセンティックなギター・ロックを鳴らしている。

 「まだ暗さや複雑さを曲に落とし込む方法がわからなくて、爽やかな歌になってました」(中塩博斗)。

 「以降、サウンドの幅を広げるために鍵盤を入れたいとなったんです。そこで下河辺を誘い、ベースだった僕がキーボードに変わって」(黒羽広樹)。

 そんな黒羽は今回のセカンド・アルバム『Hakko』で“軽民物語”や“彩華”などメロウでジャジーなダウンテンポを中心に3曲を作詞作曲している。

 「ファンクを熱心に聴いていた時期もあったので、ダンス・ミュージック的なリフレインの続く楽曲は嫌いじゃないです。“軽民物語”は夏の夕涼み会的なイメージで作りました」(黒羽)。

Khaki 『Hakko』 (ァ)柿印(2025)

 また、下河辺と平川が共作した“夢遊病”は、リオン・マイケルズが手掛けたクレイロの『Charm』にも通じるインティメイトでウォームな空気感が心地良い。

 「実際、平川に歌詞を書いてもらうにあたって、クレイロの最新作を参考に送ったんです。当初は初期のキング・クルールをイメージしていたんですけど、バンドで練った結果、違うものになりました」(下河辺太一)。

 平川は3曲目の“天使”と4曲目の“Winter Babe”を作詞作曲。アルバムのなかでもめまぐるしく展開の変わる前者、とりわけキャッチーなギター・ポップの後者が並ぶさまは、アルバムの振り幅を象徴している。

 「“天使”が完全にやりすぎなので、“Winter Babe”は〈シンプルにいい歌を作りたい〉と書いたんです」(平川)。

 比較的ストレートな曲調という点では、橋本が書いた“かれら”もストロークスを想起させる王道のガレージ・ロックだ。

 「Khakiの曲は忙しないものが多いから、僕はテンポもわりと一定で聴きやすいものにしたくて。あんまり頭を使わないで聴ける感じ」(橋本)。

 そして、フロントマンである中塩の楽曲は、ポスト・パンキッシュな“裸、道すがら”、官能的なブルース“君のせい”、演劇的な大曲“文明児”、ボッサ・ラウンジ調の“白鳥の湖”など、彼が数年前から研究しているジャズの要素が目立つ。

 「コード進行に興味があったんですけど、ジャズを聴いて自分以上に深く考えている人たちがいると感じたんです。共感できたし、超人的だなとも思った。エリック・ドルフィーやセロニアス・モンクなど、正統から外れた方向で進化している音楽が好きです。“夢遊病の”アウトロで弾いたガット・ギターのソロは、ドルフィーのスケールから外れていく感じをイメージした。“裸、道すがら”のソプラノ・サックスはフリー・ジャズっぽい」(中塩)。

 メンバー各人の創造性を無限に掛け算しながら、独自の音楽を築き上げた『Hakko』だが、中塩は本作が〈新しいもの〉であることを否定する。

 「完全に新しいものは出来ないと思うんです。組み合わせ次第というか、好きな音楽や文学をどう落とし込むかを考えながら作っています。偉大な音楽的発明をしたいというより、誰もやってない方法で自分を表現したいんです」(中塩)。

 


Khaki
中塩博斗(ヴォーカル/ギター)、平川直人(ヴォーカル/ギター)、下河辺太一(ベース)、黒羽広樹(キーボード)、橋本拓己(ドラムス)から成る5人組ロック・バンド。2021年のファースト・アルバム『Janome』が話題を集め、以降も2022年のEP『頭痛』や2023年の“Undercurrent”など配信で楽曲を発表。2024年に開催した東京LIQUIDROOMでのワンマンをソールドアウトさせるなど人気を高めるなか、このたびセカンド・アルバム『Hakko』((ァ)柿印)をリリースしたばかり。