
解決できない感情に向き合い、答えを出すアウトプットが曲なんだ
――m/lue.さんの中では“亡霊”に対して、どんな音像のイメージがあったんですか?
「bejaさんは最初曲の世界を大きいものとして捉えたと思うんですけど、でもこれは結局私の中にある世界で、最初のミックスは一人で聴くには広すぎる曲になっちゃったと思ったんです。
この曲は家に閉じこもって、なかなか外に出れない自分だったり、同じような誰かに聴いてもらいたいと思ったんですけど、目の前から聴こえる音が壮大すぎるものって、無力感を与える感覚がすごくあって。〈自分が何をやっても意味ない〉って、そう思っちゃう音になってほしくなくて、なるべく個人に寄り添える楽曲にしたかったんです」
――もともとロシアのウクライナ侵攻が背景にあったという話を聞くと、大きな音像になっていきそうだけど、もっとパーソナルな質感が重要だったと。
「戦争はダメなんですけど、〈戦争はダメです〉って歌いたいわけではないんですよね。自分は戦争に対して、あまりにもリアリティを持てていなくて、じゃあどうやったらもっと向き合えるんだろうと思ったときに、結局自分は今日本にいて、戦場にいるわけではないので、ある意味無力感があるというか。自分には自分の生活があって、結局自分のことで悩んでるんです。
戦争というものをリアリティをもって感じてしまったがゆえに、そういう矛盾とか葛藤が生まれて、どうしたらいいのかをずっと考えちゃってて」
――〈何もできずにただ一人 画面越しにただ立ち尽くすばかり〉のような歌詞にその葛藤が表れていますよね。でもそこから〈何かを主張するなら あなたをまず一人愛してみたい〉とか〈失うことが悲しいわけじゃないけど 奪われることは何か違う気がする〉といった自分自身の言葉を見つけていく経過がとても印象的に歌われています。
「今回のアルバムはbejaさんや楓雅くんと一緒に作ってはいるんですけど、それはこの4年のうちの最後の1年なんですよね。それまでの3年はずっと一人で、『あいだ』を作ってから外に出る気満々だったのに、結局部屋にずっといる状態になってしまったんです。
でもやっぱりこの解決できない感情をひたすら考え続けることしかできなくて、どうしたらいいかわからないものに対して、どう向き合って、答えを出していくかを考える、私にとってのそのアウトプットが曲なんだということを改めて思ったんです。“亡霊”の歌詞も自分がずっと悩んだ結果、最後にポンって出てきた言葉っていう感じがすごくあります」
――フィールドレコーディングで子供の声が入っていて、〈ママ〉という言葉が聴こえたり、アルバムから先行で出た“animals road”のMVも母親が撮影したm/lue.さんの幼少期の映像が使われていたり、お母さんの存在が作品の背景として大きいのかなと思いました。
「母に対する特別な思いを書いたというわけではなくて。教科書に書いてある〈戦争〉という文字ぐらいでしか、自分が歴史というものを感じ取れていなかったなと思って、そういった過去を自分の中でリアリティをもって考えるにはどうしたらいいのかなと思ったときに、自分の過去を知るところから始めようと思ったんです。
100年前、200年前、1000年前の出来事って、〈これって本当なのかな?〉と思っちゃうし、自分の子供のときの映像を見ても、〈これって本当なのかな?〉と思っちゃう瞬間があるんですけど、でもきっとこのときの自分が今につながってるわけで、自分の過去としっかり向き合うことが、歴史と向き合うきっかけになると思ったんです。
フィールドレコーディングに関しては、ずっと音を録り続けてたんですよ。ふとしたときにiPhoneでずっと音を録り溜めていて、歌よりもそういう声の方が力を持っているなってすごく思っていて。声の力で一瞬でバッて曲が広がったり、急に外のことを意識できるようになる。今回のアルバムは〈遠くを想像する〉ということがテーマの根底にあるんですけど、そのきっかけになるのが人の声なんじゃないかと思ったんです」