
記憶、想い、願い――すべての場所に存在する〈時の亡霊〉
――“亡霊”ができたことによって、赤瀬さんやbejaさんたちと一緒にアルバムに向けた本格的な制作がスタートしたわけですか?
「“亡霊”のときはまだ個人プレーが多くて、私が作った曲に楓雅くんがドラムを入れてくれて、それをbejaさんがミックスして、〈できましたね〉みたいな感じでした。
そこから〈アルバムを〉っていうことになったときに、ちょっと大きい友人の家が千葉にあるんですけど……」
――tornchですよね? ライブ映像を拝見しました。
「そうです。〈これからいろんな人が集まれるような場所にしたい〉みたいな話があって、たまたまそこに行ったら、グランドピアノが置いてあったり、防音室があったりして、ここで集まってものを作りたいと思ったんです。
で、楓雅くんとbejaさんに1〜2ヶ月に一回来てもらって、〈今日はドラムを録ろう〉、〈今日はミックスをしよう〉、〈今日はすることないからお話しよう〉みたいな(笑)。とにかく集まって、そのときできることをやるっていうのを1年ぐらいかけてルーティン化していって。なので、アルバムは“亡霊”のときとは全く違う制作過程でした」
――録音もtornchでしてるんですか?
「防音室で録ったのは基本的にドラムとbejaさんが弾くピアノぐらいで、あとは私が家で録りました。宅録だとこじんまりしちゃうけど濃密にはできるから、その感じをちゃんと残しながら、外の広がりや人の手触り、温度とかが感じられる部分をtornchで録ったんです。全部防音室で録るんじゃなくて、サロンみたいな場所に楓雅くんがいっぱいパーカッションを並べて、好きなように叩いて、“ある日の風景”はそうやって作ったり」
――では改めて、アルバムとしての方向性や青写真はどの程度ありましたか?
「今回タイトルを最初にポンって書いて、それをずっと意識しながら作りました。『Ghost of Time』は〈時の亡霊〉とか〈時の幽霊〉っていう意味になるんですけど、人々の記憶とか、想いとか、願いとか、すべての場所にはそういったものがあるんじゃないかなと思って、そのことをすごく考えながら作ったんです。なので、どこかの場所に幽霊がポツンと佇んでるのをイメージしながら曲を作りました。
それが大きな軸としてありつつ、でも同時に自分の中の小さな感情の揺れもずっと存在してる。ずっと悩んでいて、嫌になったり、投げ出したくなるような気持ちがファズを使った“DROWN”になったり、小さな自分の中の機微と大きなものが同時に進んで、1つのアルバムに入ってるイメージです」

過去に別れを告げ、今と未来を生きていく
――MVになっている“animals road”は唯一英語詞です。これはさっきの“亡霊”の話の延長で、自分の過去を振り返ってみようという側面が一番強い曲かなと思いますが、実際に歌詞で書かれていることはノンフィクションなのでしょうか?
「もうそのままです。逆に言うと、今まではぼやっとした言葉が多かったと思うんですよ。抽象的な歌詞が多い中で、“animals road”は具体的な言葉を意識しました」
――でも意味が伝わりすぎないように英語にしてる?
「それもすごくあります。自分はさっきの“Hard Drive”みたいな、重くてグサッとくるものを作りたいと思うけど、でも音楽はそもそも娯楽的な要素も多いと思うので、そこを失ってはいけないという感覚もあって。編曲ではいつもそういうことを意識するんですけど、歌詞でも折り合いのつけ方を考えた上で、今回は英語にしました」
――“animals road”では〈Goodbye〉がリフレインされていたり、1曲目の“世界はいつも一つなの?”では〈いってきます いってらっしゃい〉と歌われていたり、アルバム全体として〈別れ〉を想起させる部分も多い印象で。それこそ“Hard Drive”みたいに、実際にm/lue.さんが経験した別れが背景にあるのかなと思いました。
「特にそういうことがあったわけではなくて、この〈Goodbye〉はどちらかというと自分の過去とか、とらわれてるものとの決別なんです。私は人との別れ自体に悲しさを感じるというよりも、残された人の気持ちの方を考えちゃう。残された人たちが過去にとらわれているとしたら、それとさよならできた方が今を生きたり、未来を生きていけるんじゃないかなって。だからこの〈Goodbye〉は、私的にはすごく勇気を与える言葉だと思って使っています。
MVに関しても、私のことを知ってもらいたいわけではなく、これを見てる人が家族や過去の自分のことを思ってもらえたらいいなっていう気持ちの方が強いです」