国際的に活躍する作曲家、小瀬村晶。映画やドラマ、ゲーム、アニメの劇伴制作でも知られる多忙な音楽家が、『SEASONS』(2023年)以来2年ぶりのソロアルバム『MIRAI』を完成させた。ソロピアノの前作から一転、本作は小瀬村にとって初のボーカルプロジェクト。デヴェンドラ・バンハート、畠山美由紀、トム・アダムス、ミスター・ハドソン、ベンジャミン・グスタフソン、サロ(Saro)、バス(Baths)と、国や言語の壁を越えた歌い手が多数参加している。そんなアルバムの背景について、ライターの村尾泰郎がインタビューした。 *Mikiki編集部
小瀬村晶が歌を前面に出すアルバムを制作した理由
――新作『MIRAI』がボーカルプロジェクトになったのはどういう経緯からだったのでしょう。
「前作の『SEASONS』は、自分が今まで見てきたものや失われつつある日本の四季に思いをはせた内向きな作品だったんです。今回は外に向けたものを作りたいという気持ちがありました。僕はどちらかというと内向きな性格なので、これまで外に向けて何かを発信するということはそこまで考えていなかったんです。
でも、このアルバムを作り始めた時は、パンデミックで生まれた社会の分断や差別問題に悲観的になっていて、若い世代に作品を通じて何かを伝えたいという気持ちが生まれていました。そう思うようになったのは、子供ができたことも大きいと思いますね。
そして、その頃、アメリカの映画音楽のエージェントから、〈もっとボーカル入りの音楽を作ってみたら?〉と提案されたんです。以前、“Someday”(2016年)という曲を作ってデヴェンドラ・バンハートに歌ってもらったんですけど、それがアメリカのCMや映画の予告編に使われて評判が良かったみたいなんです。
あと、『東京喰種トーキョーグール』の漫画家・石田スイ先生とのゲーム音楽(『ジャックジャンヌ』)の制作を通じて和楽器に興味を持ったりもして、そういったいろんな要素を組み立てて未来をテーマにした作品を作りたいと思ったんです」
――ボーカルというのは新作の様々な要素のひとつだったんですね。ボーカルに対するアプローチで、これまでの作品との違いはありました?
「僕は声をひとつの楽器として見ていて、これまで〈歌を聴く〉という感覚はあまり強くなかったんです。でも、今回のレコーディングを進めていくうちに歌に対する意識は変化していきました。自分がデモで仮歌を歌っている段階ではピンとこない部分もあったりしたのですが、相手が歌うことで曲の色合いが大きく変わることを知って感動したんです。
例えばLAの若手アーティストのサロが歌った“Underflow”は2018年に書いた曲なんですけど、彼の歌声を聴いた時に曲にぴったりだと思ったんですね。もともと、この曲は男性ボーカルを想定して原音より1オクターブ下を歌うものとして書いていたんですけど、サロがハイトーンな声で1オクターブ上を歌ったらすごく良くて、僕の想像の一歩外に出た気がしたんです。
ちなみにこの曲の歌詞は、DADARAYというバンドでボーカルもやっているシンガーソングライターのnikiieに書いてもらっています。そういうこともあって、これまでは歌と楽器は比重が同じような状態で扱うことが多かったのが、今回はきちんと歌を前に出そうという気持ちになりましたね」