ソロアーティストとして活躍しながら、河瀨直美監督の映画「朝が来る」(2020年)、米国の人気TVドラマ「Love Is」(2018年)など数々の映像作品やCMの音楽を手掛けており、国際的に高く評価されている作曲家/ピアニストの小瀬村晶(Akira Kosemura)。彼がこのたびリリースした新作『Pause (almost equal to) Play』は、デザイナーの宮下貴裕による世界的ファッションブランド〈TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.〉とのコラボレーション作品で、ジャケットのデザインを宮下が担当したことも話題になっている。そんな本作について、宮下とのコラボに至った経緯、制作背景、音楽的挑戦などを、小瀬村本人がたっぷりと語ってくれた。 *Mikiki編集部
※このインタビューは2022年6月20日(月)発行の「intoxicate vol.158」に掲載される記事の拡大版です
Soloist.はひとつのアート、宮下さんが作りたい世界観を服で構築している
――『Pause (almost equal to) Play』はTAKAHIROMIYASHITATheSoloist.の2022年春夏コレクション用に制作されました。小瀬村さんがファッションショーの音楽を手掛けるのは初めてだと思いますが、デザイナーの宮下貴裕さんとは以前から交流があったのでしょうか。
「宮下さんと知り合ったのは2017年頃だったと思います。その年、Soloist.がイタリア・フィレンツェで開催された〈ピッティ・ウオモ〉でのショーで僕の曲を使ってくれたんです。僕が別の作品のレコーディングをしている時に、そのスタジオのオーナーがSoloist.のファンで、イタリアのランウェイの中継を観ていたんです。それで〈小瀬村くんの音楽が流れているよ!〉と教えてくれました。以前に宮下さんが手掛けていた〈NUMBER (N)INE〉というブランドの服は、僕が高校の頃に一際クールなブランドだったので、驚きました。その後、宮下さんから連絡を頂いて、展示会に呼んでいただくようになり、交流が始まりました」
――コレクションで自分の曲が使われているのを見てどう思われました?
「僕から見て、Soloist.は洋服のブランドというより、ひとつのアートなんです。宮下さんの作りたい世界観があって、それを洋服で構築しているように思えます。
僕が自分の音楽に抱いているイメージと、宮下さんの世界とが混ざり合った時に、音楽の印象が変わって聴こえるんですよ。それはすごく面白いことだと思っています」
コラボで重要なことはリスペクトとコミュニケーション
――曲作りに関しては宮下さんとはどのような話をされたのでしょうか。
「最初に宮下さんから〈小瀬村さんのこういった楽曲の世界観が今回のコレクションに必要だと思っています〉というプレイリストを見せてくださったんです。僕がここ2〜3年に発表した曲でした。最近の僕の試行を追ってくださっていて、あくまでその流れのなかでご一緒したいという気持ちが感じられました。
それから、コレクションで実際に使用する服を試着している画像を送ってくださったり、ほぼ毎日のように、密にやりとりしていました。宮下さんのクリエイティブな作業の実態が垣間見られて刺激的でしたし、断片的にでもイメージを伝えてもらえるのは、インスピレーションという面でも、とてもありがたかったです。
今回は自分の作品を作るのではなく、Soloist.の世界の一部になることが目標だったので。そういえば、ひとつだけ、宮下さんからリクエストがありました。タップの音を入れた曲を作ってみて欲しいという」
――タップというと靴音の?
「そうです。以前に録音したタップの素材があったので、それを使って作ったのが1曲目の“vi (almost equal to) ix”です。かなり加工しているのでタップの音とは気がつかないと思うんですけど、タップのオーディオデータを何度もプロセッシングしてビートのような音を作りました」
――宮下さんとの日々のやりとりを通じてSoloist.の世界観を探っていったわけですね。
「今回のコレクションは、以前からSoloist.のことを好きな方々にとっては、とてもインパクトのあるショーだったみたいで。Soloist.って本来はもっとロックな印象があるんですよね。宮下さん自身、ビートルズにすごく影響受けていることもあって。でも、今回はそこからかなり離れていたように感じました。
宮下さんは常に創作のインスピレーションを探しているような人で、僕の音楽もそんな宮下さんのインスピレーションのひとつになり得たのかな」
――感覚的に通じるものがあった?
「誰かと一緒に何かを作る時にとても重要なことは、まず相手のことをリスペクトできるかどうかなんです。お互いのことを尊重し合える関係性でないとうまくいかない。結局のところ、人と人なので、コミュニケーションなんです。宮下さんは僕に何かを作らせようとするのではなく、〈小瀬村さんのまま、Soloist.に入ってきて欲しい〉という雰囲気だった。
実はこの作品に入る前に倒れてしまい、1ヶ月ほど休んでいたんです。それまでのハードワークが祟って、心身共にダウンしてしまったんです。それで宮下さんに、今は音楽を作れる状態ではないことを正直にお伝えしたら、〈今回のコレクションは小瀬村さんの音楽がないと成立しないので……でも、絶対に無理はしないでください〉と言ってくれて、おすすめの漢方薬まで送ってくれました」